AI技術の進化により、Midjourneyをはじめとする画像生成AIが急速に普及し、クリエイティブな業界に大きな変革をもたらしています。テキストを入力するだけで、プロフェッショナルレベルの画像を短時間で生成できるこの技術は、デザイナーやマーケター、コンテンツクリエイターにとって非常に魅力的なツールとなりました。しかし、その便利さの一方で、生成された画像の著作権は誰に帰属するのか、商用利用は可能なのか、既存の著作物との類似性が問題にならないかといった権利関係の問題が大きな関心を集めています。特に2025年に入ってからは、ディズニーやNetflixなどの大手企業による訴訟や、日本の文化庁による見解の公表など、AI生成画像を巡る法的環境が大きく動き始めています。本記事では、Midjourneyで生成された画像の著作権の所在、商用利用における注意点、日本の著作権法上の扱い、そして実務で安全に利用するための具体的なベストプラクティスまで、2025年時点の最新情報を基に包括的に解説します。

Midjourneyとは:画像生成AIの仕組みと特徴
Midjourneyは、テキストプロンプトから高品質な画像を生成するAI画像生成サービスです。Discordプラットフォームを介して利用でき、ユーザーが入力した指示文をAIが解釈し、数十秒から数分で視覚的に魅力的な画像を作り出します。このサービスは、特に芸術性の高い画像や抽象的な表現に強みを持ち、多くのクリエイターに支持されています。
このサービスの最大の特徴は、専門的な技術知識がなくても、誰でも簡単にプロフェッショナルな画像を生成できる点にあります。従来であれば、イラストレーターやデザイナーに依頼する必要があった作業が、わずか数分で完了するため、制作コストと時間を大幅に削減できます。しかし、この手軽さゆえに、著作権や権利関係に関する理解が不十分なまま利用されるケースが増えており、法的トラブルのリスクも高まっています。
Midjourneyは、インターネット上に公開されている膨大な数の画像を学習データとして使用し、その特徴やパターンを学習することで画像生成能力を獲得しています。この学習過程において、著作権で保護された作品が含まれていることが、後述する訴訟問題の大きな要因となっています。
Midjourneyで生成された画像の著作権は誰に帰属するのか
Midjourneyで生成された画像の著作権については、利用プランによって扱いが大きく異なります。この点を正確に理解しておかないと、商用利用の際に重大な問題が発生する可能性があります。
有料プランを利用している場合、生成された画像の著作権は基本的にユーザーに帰属します。ただし、Midjourneyも生成画像に対して一定のライセンス権を保持しているため、完全な独占的権利ではありません。具体的には、Midjourneyは生成された画像をサービスのプロモーションや改善のために使用する権利を留保しています。
一方、無料プランを利用している場合には、生成された画像にCreative Commons Noncommercial 4.0 Attribution International Licenseが適用されます。このライセンスでは、商用利用が明確に禁止されており、非商用目的での利用に限定されます。つまり、無料プランで生成した画像を販売したり、広告に使用したり、商品パッケージに利用したりすることはできません。
特に注意すべき点として、他のユーザーが作成した画像をアップスケール(解像度を上げる処理)した場合、そのアップスケール後の画像の所有権は、アップスケールを行ったユーザーではなく、元の画像を作成したユーザーに帰属します。これは、他人の作品を単に加工しただけでは新たな権利が発生しないという原則に基づいています。
また、作成した画像の所有権は、メンバーシップをダウングレードまたはキャンセルした後も存続します。つまり、一度有料プランで作成した画像の権利は、その後無料プランに変更したり、サービスを解約したりしても失われることはありません。これは、クリエイターにとって安心できる仕組みと言えるでしょう。
日本における著作権法上の扱いとAI生成物の法的位置づけ
日本の著作権法において、AI生成物が著作物として認められるかどうかは、その生成過程における人間の創作性の有無が重要な判断基準となります。文化庁は、令和6年3月に「AIと著作権に関する考え方について」という文書を公表し、AIと著作権の関係について政府の見解を示しました。
この文書によると、AIと著作権の関係は、AI開発・学習段階と生成・利用段階の2つの段階に分けて考える必要があります。
AI開発・学習段階では、著作権法第30条の4(非享受目的利用)が適用される可能性があります。これは、著作物に表現された思想や感情の享受を目的としない利用行為で、かつ著作物の市場に大きな影響を与えない場合に限り、著作権者の許諾なしに著作物の利用を認めるものです。AIの学習データとして著作物を使用する行為は、この規定に該当する可能性があるとされています。
生成・利用段階では、AIを利用して画像を生成したり、AI生成物の公表や複製物の販売を行ったりする場合、通常の著作権侵害と同様の判断基準が適用されます。具体的には、既存の著作物との類似性と依拠性の両方が認められる場合に、著作権侵害になるとされています。類似性とは生成された画像が既存の著作物と似ていることを、依拠性とは生成された画像が既存の著作物を参考にして作られたことを指します。
一般的に、Midjourneyで生成された画像は、簡単な指示文に基づいてAIが自動生成するため、著作物に該当しないとされる場合が多いです。日本の文化庁の見解では、AI生成作品は通常、創作的表現よりもAIの技術的処理によって生成されるため、著作物とは認められにくいとされています。ただし、プロンプトの設計に高度な工夫が凝らされていたり、生成後に人間が大幅な編集を加えたりした場合は、創作性が認められる可能性もあります。
Midjourneyの商用利用における条件と制限
Midjourneyで生成された画像を商用利用する際には、いくつかの重要な条件を満たす必要があります。これらの条件を理解せずに商用利用すると、利用規約違反や法的トラブルに発展する可能性があります。
まず、商用利用が許可されるのは有料プランのユーザーに限られます。無料プランでは、前述のとおり、Creative Commons Noncommercial 4.0 Attribution International Licenseが適用されるため、商用利用は明確に禁止されています。
次に、企業規模による制限があります。年間収益が100万ドル(2025年1月時点で約1億5,500万円)を超える企業がMidjourneyを利用する場合は、Proプラン以上への加入が必須となります。これは、大規模な商業利用に対して適切な料金体系を適用するための措置です。この条件を満たさずに商用利用を行うと、利用規約違反となり、法的措置を取られる可能性があります。
また、Midjourneyの利用規約では、版権キャラクターの生成は原則として禁止されています。これは、既存の著作物の権利を侵害するリスクを避けるためです。たとえば、有名なアニメキャラクターや映画のキャラクター、ゲームのキャラクターをプロンプトに含めて画像を生成し、それを商用利用することは、元の著作権者の権利を侵害する可能性が極めて高いです。
さらに、特定のアーティストの名前や作風を明示的に指定するプロンプトの使用も、著作権侵害のリスクを高めます。例えば、「ピカソ風の絵画」「宮崎駿風のアニメーション」といったプロンプトは、既存のアーティストの権利を侵害する可能性があるため、商用利用の際には避けるべきです。
Midjourneyの料金プランと商用利用の関係
Midjourneyは、複数の料金プランを提供しており、それぞれに異なる機能と利用条件が設定されています。2025年時点での主なプランと商用利用の関係について詳しく見ていきましょう。
Basicプランは、個人や小規模なプロジェクト向けのプランで、月額料金を支払うことで商用利用が可能になります。このプランでは、一定数の画像生成が可能で、基本的な機能を利用できます。ただし、年間収益が100万ドルを超える企業は利用できません。個人クリエイターやフリーランス、スタートアップ企業にとっては、コストパフォーマンスの良い選択肢と言えます。
Standardプランは、Basicプランよりも多くの生成回数や機能が利用できるプランです。こちらも商用利用が可能ですが、年間収益が100万ドルを超える企業は利用できません。より多くの画像を生成する必要があるクリエイターや、チームで利用する場合に適しています。
Proプランは、年間収益が100万ドルを超える企業でも利用可能なプランです。このプランの大きな特徴は、Stealth Modeと呼ばれる機能が利用できる点です。Stealth Modeでは、生成した画像を非公開にすることができ、他のユーザーに自分の作品を見られることなく、プライベートに画像を生成できます。企業の機密性の高いプロジェクトや、新製品の開発段階での利用に非常に有効です。
Megaプランは、最も高額なプランで、Proプランの機能に加えて、さらに多くの生成回数や優先的なサポートが提供されます。大規模な企業や、大量の画像生成を必要とするプロジェクトに適しています。
これらのプランの選択は、利用目的や企業規模、必要な機能に応じて慎重に行う必要があります。特に、商用利用を前提とする場合は、自社の年間収益を確認し、適切なプランを選択することが法的リスクを回避するために極めて重要です。
プライバシー保護とStealth Modeの重要性
Midjourneyでは、デフォルトで生成された画像が一般公開され、他のユーザーがリミックス(再利用や改変)できる設定になっています。これは、コミュニティ全体で創作活動を共有し、互いに刺激し合うという理念に基づいています。
しかし、ビジネス用途や機密性の高いプロジェクトでは、画像を公開したくない場合が多くあります。例えば、新製品のデザイン案、マーケティングキャンペーンのビジュアル、企業の内部資料などは、競合他社に知られたくない情報です。そのような場合に非常に有効なのがStealth Modeです。
Stealth Modeは、ProプランとMegaプランのユーザーのみが利用できる機能で、生成した画像を非公開に設定できます。これにより、競合他社や一般のユーザーに自社のプロジェクトを知られることなく、安全に画像を生成することが可能になります。
特に、以下のような場面では、Stealth Modeの利用が強く推奨されます。新製品の開発段階でのデザイン検討、マーケティングキャンペーンの企画段階でのビジュアル作成、企業の内部プレゼンテーション資料の作成、クライアントワークでの機密性の高いプロジェクトなどです。
Stealth Modeを利用しない場合、生成した画像は他のユーザーに閲覧され、アイデアが模倣されるリスクがあります。特に競争の激しい業界では、このリスクは企業の競争優位性を損なう可能性があるため、適切なプランの選択が重要です。
Midjourneyに関する著作権侵害の訴訟事例と法的動向
Midjourneyを含む画像生成AIに対しては、著作権侵害を理由とした複数の訴訟が起こされており、AI技術と著作権法の交差点における重要な問題を浮き彫りにしています。
2023年1月には、Stability AI、Midjourney、DeviantArtの3社を相手取り、アーティストたちが集団訴訟を提起しました。この訴訟では、AIが学習データとして使用した画像に対して、元のアーティストの許諾を得ていなかったことが問題視されています。アーティストたちは、自分の作品が無断でAIの学習に使用され、それによって生成された画像が自分の作品と類似していると主張しています。
さらに2024年には、ウォルト・ディズニー、ユニバーサル、Netflix、その他の大手エンターテインメント企業が、Midjourneyによって出力される画像が著作権を侵害しているとする訴状をロサンゼルスの連邦地方裁判所に提出しました。これらの企業は、自社が保有する膨大な著作物が、Midjourneyの学習データとして無断で使用され、その結果として生成される画像が自社の著作権を侵害していると主張しています。
この訴訟では、生成AIが「盗作の底なし沼」であるとの表現も使われており、AI技術と既存の著作権システムとの深刻な対立を象徴しています。特に注目すべきは、個人のアーティストだけでなく、世界的な大企業もAI企業に対して法的措置を取り始めたという点です。
これらの訴訟の結果は、今後のAI画像生成サービスの運営方針や、AI技術と著作権法の関係に大きな影響を与える可能性があります。場合によっては、AI企業が学習データとして使用できる著作物に制限が設けられたり、生成された画像の利用に追加の制約が課されたりする可能性もあります。
生成画像が既存の著作物と類似していた場合のリスクと対策
Midjourneyで生成した画像が、既存の著作物と類似している、または同一と見なされる場合、著作権侵害に該当する可能性があります。これは、たとえ意図せず類似してしまった場合でも同様です。
日本の判例では、著作権侵害の成立には、類似性と依拠性の両方が必要とされています。類似性とは、生成された画像が既存の著作物と似ていることを指し、依拠性とは、生成された画像が既存の著作物を参考にして作られたことを指します。
Midjourneyの場合、AIが学習データとして使用した画像に既存の著作物が含まれている可能性があるため、生成された画像が意図せず既存の著作物と類似してしまうリスクがあります。特に、有名なアーティストの作風や、特定のキャラクターを連想させるプロンプトを使用した場合、このリスクは著しく高まります。
このリスクを避けるためには、以下の対策が重要です。まず、既存の著作物を明示的に模倣するようなプロンプトは避けることです。たとえば、特定のアーティストの名前やキャラクター名をプロンプトに含めることは控えるべきです。代わりに、「ファンタジー風の風景」「王女のイラスト」「抽象的な現代アート」といった、より一般的で抽象的な表現を使用することが推奨されます。
次に、生成された画像を商用利用する前に、既存の著作物と類似していないかを確認することです。Google画像検索やTinEyeなどの逆画像検索サービスを利用することで、類似の画像を発見できます。可能であれば、法律の専門家に相談することも検討すべきです。
さらに、Midjourneyの利用規約をよく読み、禁止されている行為を理解しておくことも重要です。利用規約に違反する行為は、Midjourneyからのアカウント停止だけでなく、法的な責任を問われる可能性もあります。
2025年の利用規約の更新内容と新機能
Midjourneyは、サービスの進化に伴い、利用規約を定期的に更新しています。2025年6月には、画像エディターと動画モデルに関する条項が追加されました。
画像エディター機能は、生成された画像をさらに編集できる機能で、細かな調整や修正を行うことができます。この機能の追加により、ユーザーはより自分の意図に近い画像を作成できるようになりました。例えば、特定の部分の色を変更したり、不要な要素を削除したり、細部を追加したりすることが可能になります。
動画モデルに関する条項は、Midjourneyが静止画だけでなく、動画の生成にも対応し始めたことを示しています。これにより、ユーザーは動的なコンテンツも作成できるようになり、マーケティングやエンターテインメント、教育コンテンツなど、さまざまな分野での活用が期待されています。
ただし、これらの新機能についても、既存の利用規約と同様に、商用利用の条件や著作権の取り扱いに関する規定が適用されます。特に、動画コンテンツは静止画よりも情報量が多く、既存の著作物との類似性が問題になりやすいため、利用の際には十分な注意が必要です。
また、編集機能を使用して既存の著作物を再現するような行為は、明確な著作権侵害に該当する可能性が高いため、絶対に避けるべきです。新機能は便利ですが、その分法的リスクも増大する可能性があることを理解しておく必要があります。
著作権侵害を避けるための具体的なプロンプトの使い方
Midjourneyを利用する上で、著作権侵害を避けるためのプロンプトの使い方を理解することは非常に重要です。プロンプトに著作物や人物に関するワードを含めると、著作権侵害にあたる画像が生成されるおそれがあります。
具体的には、以下のような表現をプロンプトに含めることは避けるべきです。有名なアーティストの名前(ピカソ、ゴッホ、宮崎駿など)、キャラクター名(ミッキーマウス、ピカチュウ、ドラえもんなど)、映画のタイトルや作品名、ブランド名やロゴ、有名人の名前などです。
これらの表現を使用すると、AIは学習データの中からそれらに関連する画像の特徴を抽出し、類似した画像を生成する可能性が高くなります。その結果、既存の著作物との類似性が高まり、著作権侵害のリスクが増大します。
代わりに、より一般的で抽象的な表現を使用することが推奨されます。例えば、「スタジオジブリ風の風景」ではなく「緑豊かなファンタジー風の田園風景」、「ディズニーのプリンセス」ではなく「華やかなドレスを着た王女」、「ピカソ風の絵画」ではなく「幾何学的な抽象画」といった表現を使用することで、特定の著作物との関連性が薄くなり、侵害のリスクを低減できます。
また、プロンプトの工夫だけでなく、生成された画像が既存の作品に酷似していないかを確認することも重要です。世界中に公開されている情報から生成されるため、著作権の問題は100パーセント避けられるものではありませんが、注意深く確認することでリスクを最小限に抑えることができます。
他の画像生成AIとの比較:Stable DiffusionとDALL-E 3
Midjourneyの著作権問題を理解する上で、他の主要な画像生成AIとの比較も有用です。現在、主に使用されている画像生成AIには、Midjourney、Stable Diffusion、DALL-E 3の3つがあります。
Stable Diffusionは、オープンソースの画像生成AIで、ローカル環境での利用を前提としています。APIやプラグインを通じた統合が可能で、高度なカスタマイズ性が特徴です。従来の画像生成AIツールの多くが有料であるのに対し、Stable Diffusionは基本的に無料で利用できます。ただし、技術的な知識が求められるため、初心者には扱いが難しい面があります。著作権に関しては、Stable Diffusionも学習データとして著作物を使用していることから、Midjourneyと同様の訴訟の対象となっています。
DALL-E 3は、OpenAIが開発した画像生成AIで、ChatGPTやBingとの連携が可能です。MidjourneyやStable Diffusionとの大きな違いは、日本語で直接利用できる点です。また、現実的なシーンやキャラクターデザインに強みがあります。著作権に関しては、ChatGPTで生成した画像はユーザーに権利が与えられ、商用利用が可能とされています。ただし、生成された画像が既存のコンテンツと類似していないか確認することが推奨されています。
これら3つの画像生成AIを比較すると、それぞれ異なる強みと弱みがあることがわかります。抽象的で芸術性の高い画像を求めるならMidjourney、リアルでディテール表現を重視するならDALL-E 3、写実的な画像でカスタマイズ性を求めるならStable Diffusionが向いています。
ただし、どのサービスを利用する場合でも、著作権に関する問題は共通して存在します。ユーザーとしては、各サービスの利用規約を理解し、著作権侵害のリスクを最小限に抑える使い方を心がけることが重要です。
企業が画像生成AIを利用する際の注意点と法的リスク管理
企業がMidjourneyなどの画像生成AIを商用利用する際には、個人利用以上に慎重な対応が求められます。企業利用においては、以下の点に特に注意が必要です。
第一に、適切な料金プランの選択です。年間収益が100万米ドル以上の企業がMidjourneyの画像を商用利用する場合、ProまたはMegaのいずれかに加入していなければなりません。この規定に違反すると、利用規約違反となり、法的な問題に発展する可能性があります。また、契約違反による損害賠償請求のリスクもあります。
第二に、生成された画像の著作権チェック体制の構築です。企業が作成したマーケティング素材やプロダクトデザインが既存の著作物と類似している場合、企業の信用問題に発展するだけでなく、損害賠償請求の対象となる可能性があります。そのため、専門の法務部門や外部の法律事務所と連携し、生成画像の著作権リスクを評価する体制を整えることが推奨されます。
第三に、Stealth Modeの積極的な活用です。企業の新製品開発やマーケティングキャンペーンなど、機密性の高いプロジェクトでは、Stealth Modeを利用して生成画像を非公開にすることが重要です。これにより、競合他社に情報が漏れるリスクを最小限に抑えることができます。
第四に、社内ガイドラインの策定です。従業員が無許可でAI生成画像を商用利用することを防ぐため、明確なガイドラインを作成し、教育を行うことが重要です。特に、著作権侵害のリスクが高いプロンプトの使用を禁止したり、生成画像の使用前に承認プロセスを設けたりすることが有効です。
第五に、最新の法的動向の把握です。AI技術と著作権法の関係は急速に変化しており、新たな判例や法改正が頻繁に行われています。企業としては、こうした動向を常に把握し、必要に応じて社内ポリシーを更新していくことが求められます。
画像生成AIの学習データと著作権の問題
Midjourneyをはじめとする画像生成AIの著作権問題を理解する上で、AIの学習データについても理解しておく必要があります。これらのAIは、インターネット上に公開されている膨大な数の画像を学習データとして使用し、その特徴を学習することで、新しい画像を生成する能力を獲得しています。
問題となっているのは、この学習データに含まれる画像の多くが、著作権で保護された作品であるという点です。アーティストたちは、自分の作品が許諾なくAIの学習に使用され、その結果として自分の作風に似た画像が大量に生成されることに反発しています。特に、長年かけて独自のスタイルを確立してきたアーティストにとって、AIが数秒でそのスタイルを模倣できてしまうことは、創作活動の価値を損なうものと感じられています。
日本の著作権法第30条の4は、非享受目的利用として、著作物に表現された思想や感情の享受を目的としない利用行為で、かつ著作物の市場に大きな影響を与えない場合に限り、著作権者の許諾なしに著作物の利用を認めています。AIの学習段階における著作物の使用は、この規定に該当する可能性があるとされています。
しかし、この解釈には議論の余地があり、特にAI生成物が既存のアーティストの市場を侵食する可能性がある場合、「著作物の市場に大きな影響を与えない」という条件を満たさないという主張もあります。実際、AI生成画像の普及により、イラストレーターやデザイナーへの依頼が減少しているという報告もあり、この問題は単なる法律論にとどまらない実質的な経済的影響を持っています。
海外では、より厳しい解釈が採用される可能性もあります。EUでは、AI規制法が制定され、AIの学習データとして使用される著作物に対して、より厳格な規制が課される方向性が示されています。また、アメリカでも、複数の訴訟を通じて、AIの学習段階における著作物の使用が公正使用(フェアユース)に該当するかどうかが争われています。
AI生成画像の著作物性と創作性の問題
日本の著作権法において、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。AI生成画像が著作物として認められるためには、この定義を満たす必要があります。
特に重要なのは「創作的に表現」という要件です。文化庁の見解によれば、単にAIにプロンプトを入力して自動生成された画像は、通常、創作的表現とは認められにくいとされています。これは、画像の生成過程において、人間の創作的な関与が限定的であるためです。
ただし、プロンプトの設計に高度な工夫が凝らされていたり、生成後に人間が大幅な編集を加えたりした場合は、創作性が認められる可能性もあります。例えば、複雑なパラメータ調整を行ったり、複数の生成画像を組み合わせて新しい作品を作り出したり、画像編集ソフトで大幅に加工したりした場合は、人間の創作的関与が認められ、著作物として保護される可能性があります。
AI生成画像に著作物性が認められない場合、その画像は著作権による保護を受けないことになります。これは、第三者がその画像を自由に複製・改変・配布できることを意味します。Midjourneyの利用規約では、有料ユーザーに対して画像の権利を付与していますが、これはあくまで契約上の権利であり、著作権法による保護とは異なります。
企業がAI生成画像を商用利用する場合、この点を理解しておくことが重要です。AI生成画像が著作物として認められない場合、競合他社が同じ画像を使用することを法的に阻止できない可能性があります。そのため、ブランディングや製品デザインなど、独自性が重要な用途では、AI生成画像をそのまま使用するのではなく、人間のデザイナーが創作的な編集を加えることが推奨されます。
今後の規制動向と業界の対応
画像生成AIを巡る著作権問題は、今後さらに複雑化していくことが予想されます。各国政府は、AI技術の発展と既存の著作権システムのバランスをどう取るかという難しい課題に直面しています。
日本では、文化庁が中心となってAIと著作権に関する議論を進めており、令和6年3月に公表された「AIと著作権に関する考え方について」は、現時点での政府の見解を示すものとなっています。しかし、これはあくまで解釈指針であり、法律としての明確な規定が整備されるまでには時間がかかると予想されます。
海外では、より積極的な規制が進められています。EUのAI規制法では、AIシステムの透明性や説明責任が求められており、学習データとして使用された著作物に関する情報開示が義務付けられる可能性があります。また、著作権者がオプトアウト(自分の作品をAIの学習に使用させない)する権利を認める法律を制定する動きもあります。
アメリカでは、著作権局がAIと著作権に関する意見募集を行っており、将来的な法改正の可能性を探っています。また、前述の通り、複数の訴訟が進行中であり、これらの判決が今後の法解釈に大きな影響を与えることが予想されます。
AI企業側も、こうした動向に対応するための措置を講じ始めています。一部のAI企業は、著作権者と直接ライセンス契約を結び、合法的に学習データを取得する試みを始めています。また、オプトアウトシステムを導入し、著作権者が自分の作品を学習データから除外できるようにする企業も現れています。
Midjourneyも、今後こうした取り組みを強化していく可能性があります。ユーザーとしては、こうした企業の対応や規制の動向を注視し、自分の利用方法が常に適法かつ倫理的であるかを確認することが重要です。
実務における著作権リスク管理のベストプラクティス
Midjourneyを実務で利用する際には、体系的な著作権リスク管理が不可欠です。以下に、実務上推奨されるリスク管理のステップを示します。
まず、利用前の計画段階では、生成する画像の用途と公開範囲を明確にします。社内資料として使用するのか、外部に公開するマーケティング素材として使用するのか、商品そのものとして販売するのかによって、リスクのレベルが異なります。用途が広範囲であればあるほど、慎重な対応が必要です。
次に、プロンプトの作成段階では、著作権侵害のリスクが高い表現を避けます。具体的には、特定のアーティスト名、キャラクター名、ブランド名、作品名などを含めないようにします。代わりに、スタイルや雰囲気を一般的な言葉で表現することを心がけます。
画像生成後は、類似画像検索ツールを使用して、生成された画像が既存の著作物と酷似していないかを確認します。Google画像検索やTinEyeなどの逆画像検索サービスを利用することで、類似の画像を発見できます。この確認作業は手間がかかりますが、後の法的トラブルを避けるためには極めて重要です。
高リスクな用途(商品パッケージ、ロゴ、大規模な広告キャンペーンなど)で使用する場合は、法律の専門家によるレビューを受けることを推奨します。弁護士や弁理士に相談することで、潜在的な法的リスクを事前に把握し、適切な対策を講じることができます。専門家への相談費用は、後の訴訟リスクを考えれば十分に価値のある投資です。
また、使用する画像とプロンプトの記録を保持することも重要です。万が一著作権侵害の疑いをかけられた場合、自分がどのようなプロセスで画像を作成したかを証明できる記録があれば、防御の材料となります。具体的には、使用したプロンプト、生成日時、選択理由、編集履歴などを文書化しておくことが推奨されます。
最後に、定期的なポリシーの見直しと従業員教育を実施します。AI技術と法規制は急速に変化するため、年に一度は社内ポリシーを見直し、従業員に対して最新の情報を共有することが推奨されます。特に、新しい判例や法改正があった場合は、速やかに社内ポリシーに反映させることが重要です。
まとめ:Midjourneyを安全に利用するために
Midjourneyをはじめとする画像生成AIは、クリエイティブな作業を大幅に効率化し、新しい表現の可能性を広げる素晴らしいツールです。しかし、その利用には、著作権や権利関係に関する正しい理解が不可欠です。
Midjourneyで生成された画像の著作権は、利用プランによって異なり、有料プランでは基本的にユーザーに帰属しますが、無料プランでは商用利用が禁止されています。また、年間収益が100万ドルを超える企業は、Proプラン以上への加入が必要です。この条件を満たさない商用利用は、利用規約違反となり、法的問題に発展する可能性があります。
日本の著作権法においては、AI生成物は通常、著作物とは認められにくいとされていますが、既存の著作物と類似している場合は著作権侵害に該当する可能性があります。生成された画像を商用利用する際には、既存の著作物との類似性を確認し、必要に応じて法律の専門家に相談することが重要です。
著作権侵害を避けるためには、プロンプトに特定のアーティスト名やキャラクター名を含めないこと、生成された画像を逆画像検索で確認すること、高リスクな用途では法的レビューを受けることなど、具体的な対策を講じることが必要です。
AI技術と著作権法の関係は、今後も進化し続けるでしょう。2023年以降の集団訴訟や大手企業による訴訟は、この分野の法的環境が大きく変化していることを示しています。ユーザーとしては、利用規約や法律の動向を常にチェックし、適切な利用を心がけることが求められます。
企業がMidjourneyを利用する際には、適切な料金プランの選択、著作権チェック体制の構築、Stealth Modeの活用、社内ガイドラインの策定、最新の法的動向の把握など、個人利用以上に慎重な対応が必要です。
Midjourneyを安全かつ効果的に活用することで、ビジネスやクリエイティブな活動をさらに発展させることができるでしょう。しかし、それには正しい知識と適切なリスク管理が不可欠です。本記事で解説した内容を参考に、法令を遵守しながら、AI画像生成技術の恩恵を最大限に活用していただければ幸いです。
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