近年、副業としてストックフォトやイラスト販売を始める人が増えていますが、収入が発生すると避けて通れないのが税金の問題です。「いくらから申告が必要なの?」「海外サイトのドル建て収入はどう処理する?」「源泉徴収されているけど二重課税にならない?」など、多くのクリエイターが抱える疑問は尽きません。ストックフォト収入の税務処理は、利用するプラットフォームや収入規模によって大きく異なり、適切な知識がないと思わぬトラブルを招く可能性もあります。本記事では、2025年時点の最新税制を踏まえ、ストックフォト収入に関する税金の基本から実践的な申告方法まで、クリエイターが知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。

ストックフォト収入はいくらから確定申告が必要?副業の場合の20万円ルールとは
ストックフォト収入の確定申告について、最も基本的で重要なのが「いくらから申告が必要か」という点です。会社員が副業としてストックフォトを行っている場合、年間所得が20万円を超えると所得税の確定申告が必要になります。ここで注意すべきは、この「所得」とは収入から経費を差し引いた純利益を指すことです。
例えば、年間で写真販売による収入が40万円あったとしても、カメラ機材費や編集ソフト代、サイトへの振込手数料などの経費が30万円かかった場合、所得は10万円となり確定申告は不要になります。しかし、この20万円ルールには重要な落とし穴があります。住民税に関しては年間所得が20万円以下であっても別途申告が必要となる場合があるのです。
確定申告をしない場合でも、副業の収入により住民税が加算されるため、市町村への申告が求められることがあります。確定申告を行えば、そのデータが自動的に市町村に送付され住民税が確定しますが、確定申告をしない場合は住民税の申告を別途行う必要があります。特に会社員の場合、住民税の変動により副業が発覚する可能性もあるため、慎重な対応が求められます。
また、複数のストックフォトサイトを利用している場合は、全サイトの所得を合算して判断する必要があります。個別のサイトでは20万円以下でも、合計すると20万円を超える場合は確定申告が必要です。さらに、年末時点でサイト内に蓄積されている未換金の報酬についても、発生主義の原則に基づいて所得として計上する必要があるため、実際の入金額だけでなく、サイト上での獲得報酬も含めて判断することが重要です。
ストックフォトの所得区分は雑所得?事業所得?どちらを選ぶべきか
ストックフォト収入の所得区分は、主に「雑所得」または「事業所得」のいずれかになり、この選択は税務上の取り扱いに大きな影響を与えます。雑所得は、写真販売が趣味の範囲にとどまり、継続的な収入源となっていない場合や規模が小さい場合(年間10万円から20万円程度で収入の継続性がない場合など)に適用されます。
副業としてストックフォトを行う場合、最も簡単な申告方法は開業届を提出せず、白色申告で雑所得として申告する方法です。この場合、複雑な帳簿付けは不要とされており、手軽に始められるメリットがあります。ただし、節税効果は限定的で、収入が300万円を超えると帳簿付けが必要となり、1,000万円を超えると収支内訳書の作成義務が発生するため注意が必要です。
一方、事業所得は、ストックフォトが継続的な収入源となっており、事業的な規模と認められる場合に適用されます。事業所得として申告する最大のメリットは、青色申告を選択できることです。青色申告では赤字を3年間繰り越せる「繰越欠損金」の制度があり、これはストックフォトのように収入が不安定な事業にとって非常に有効です。
例えば、初年度に機材購入等で100万円の赤字が出た場合、翌年以降3年間にわたって利益と相殺することができます。また、複式簿記で記帳し適切な書類を提出すれば、最大65万円の青色申告特別控除を受けることも可能です。ただし、青色申告には複式簿記での記帳が求められるため、会計知識や専用ソフトの導入が必要となり、記帳の手間が大幅に増加するデメリットもあります。
どちらを選ぶべきかは、収入規模と継続性、そして税務処理にかけられる時間を総合的に判断する必要があります。年間所得が100万円以下で趣味の延長という場合は雑所得、本格的に収益を上げていく意志があり年間所得が数十万円以上見込める場合は事業所得での申告を検討することをお勧めします。
海外ストックフォトサイト(Adobe Stock、Shutterstock)のドル建て収入の税務処理方法
Adobe StockやShutterstockなど海外のストックフォトサイトでは、報酬をドル建てで受け取ることが一般的で、これには特別な税務処理が必要になります。最も重要なのは為替レートの適用方法です。月ごとのドル建て売上に対して、為替レートは月末または月中平均のTTM(仲値)を用いることが多く、一貫性を持たせることが重要です。
具体的な記帳例を見てみましょう。100ドルの売上があり、その時のレートが1ドル=110円だった場合、「借方:売掛金 11,000円/貸方:売上高 11,000円」として記帳します。その後、PayPalに入金された時点でレートが1ドル=115円に変動していた場合、「借方:普通預金 11,500円/貸方:売掛金 11,000円、雑収入(為替差益)500円」として、為替差益を計上する必要があります。
逆に為替が不利に動いた場合は為替差損として処理し、年末決算時にドル建ての売掛金やPayPal残高がある場合は、年末時点のレートで調整を行います。PayPalからの出金時にも為替変動の影響を受けるため、入金時と出金時の為替差損益を適切に計上することが重要です。
また、Adobe StockなどではW-8BENフォームの提出が必要です。これは日本居住のクリエイターが米国で発生した売上に対して、日本の税制が適用されることを証明するための手続きで、米国での源泉徴収税率の軽減効果があります。フォームには氏名、国籍、住所、生年月日などを記入し、署名して提出します。
ドル建て収入の管理では、月末レートでの円換算額を記録し、実際の入金額との差額を為替差損益として処理することが基本です。クラウド会計サービスを利用する場合、PayPalとの連携により自動取り込みが可能ですが、為替レートの設定や差損益の処理については手動での調整が必要になることが多いため、事前に処理方法を確認しておくことをお勧めします。
PIXTAなど国内サイトの源泉徴収とインボイス制度への対応方法
国内のストックフォトサイト、特にPIXTAでは源泉徴収が自動的に行われ、著作物利用に対する報酬の源泉徴収税率として原則10.21%が差し引かれます。多くのクリエイターが「二重課税になるのでは」と心配しますが、源泉徴収は所得税の前払いのようなものであり、確定申告で最終的に精算されるため、実際に二重課税になることはありません。
源泉徴収の帳簿付けは入金時に行うのが一般的です。例えば、10,000円の売掛金に対して源泉徴収税1,021円と振込手数料220円が差し引かれ、8,759円が入金された場合の仕訳は「借方:普通預金 8,759円、事業主貸 1,021円、支払手数料 220円/貸方:売掛金 10,000円」となります。源泉徴収税は「事業主貸」として処理するのが一般的です。
2023年10月から開始されたインボイス制度は、ストックフォトクリエイターに大きな影響を与えています。PIXTAでは、適格請求書発行事業者として登録しているかどうかによって、獲得クレジット単価と消費税の取り扱いが変更されています。登録済みクリエイターは1獲得クレジット=100円(税抜)となり別途消費税が加算されますが、未登録クリエイターは段階的に単価が引き下げられる仕組みになっています。
免税事業者のままでいるか、課税事業者になるかの判断は慎重に行う必要があります。副業で売上が少なく、報酬が10%程度減っても影響が少ない場合は免税事業者のままが有利です。一方、クリエイターとしての仕事が多く、取引を維持するためにインボイス発行が求められる場合は課税事業者への移行を検討する必要があります。
重要なのは、PIXTAが仕入明細書を発行しており、これが適格請求書の要件を満たすため、登録クリエイターはPIXTAに対してインボイスを発行する必要がないことです。この仕組みにより、事務負担を軽減しながらインボイス制度に対応できるようになっています。ただし、一度課税事業者になると消費税の申告納税が義務付けられ、登録取り消しにも別途申請が必要となるため、慎重な判断が求められます。
ストックフォト収入の帳簿付けと確定申告の実践的な進め方
ストックフォト収入の帳簿付けで最も重要なのは「発生主義」の原則です。これは実際にお金が振り込まれたタイミングではなく、売上が発生したタイミングで記帳するという考え方で、サイト上で報酬がカウントされた時点で収入として計上する必要があります。
効率的な確定申告のためには、事業用口座とクレジットカードをプライベートと分離することが重要です。楽天銀行や住信SBIネット銀行などのネット銀行は、フリーランスでも口座開設しやすく、クラウド会計サービスとの連携も充実しています。クレジットカードも楽天カードやPayPayカードなどが審査に通りやすいとされています。
クラウド会計サービス(freee、マネーフォワード、やよいの青色申告オンラインなど)を活用することで、銀行口座やクレジットカード、PayPalの取引を自動取り込みでき、記帳作業を大幅に効率化できます。月ごとにまとめて記帳することで十分であり、各サイトからCSVデータをダウンロードしたり、画面キャプチャを保存したりして、帳簿付けの根拠となる書類を保管しておくことが大切です。
確定申告の準備では、年間の収入情報を支払者所在地、支払者名、金額、経費、源泉徴収額の項目でまとめておくと便利です。各ストックフォトサイトの会員ページで実際の振込金額や源泉徴収税、換金手数料を確認し、年間の合計額を算出します。
副業として行っている場合は、副業所得の住民税徴収方法を「自分で納付」に設定することで、会社に副業を知られにくくすることができます。国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用してオンラインで申告書を作成し、e-Taxで提出すれば手続きは完了です。翌年以降のために最終データを保存しておくと、次回の申告作業が格段に楽になります。
重要なのは、12月31日時点で換金可能額に達していない収入は、その年は申告不要で、換金可能額に達した年にまとめて申告することです。各サイトの換金条件を把握し、適切なタイミングで申告を行うことで、無駄な税務処理を避けることができます。
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