デジタルコンテンツ制作の現場において、ロイヤリティフリー素材は今や欠かせない存在となっています。ウェブサイトの制作、広告キャンペーン、SNSでの情報発信など、あらゆる場面で写真やイラスト、動画といった視覚的な素材が求められており、その多くがロイヤリティフリー素材として提供されています。しかし近年、このロイヤリティフリー素材市場において価格低下という大きな変化が起きています。市場全体としては成長を続けているにもかかわらず、個々の素材やクリエイターが得られる報酬は減少傾向にあり、業界構造そのものが転換期を迎えているのです。この価格低下の背景には、AI画像生成技術の急速な発展、定額制プランの普及、競合の激化といった複数の要因が複雑に絡み合っています。本記事では、ロイヤリティフリー 素材 価格低下 原因 市場分析という視点から、現在の市場状況を詳しく解説し、価格が下がっている具体的な原因を明らかにしていきます。さらに、グローバル市場と日本市場の動向を比較しながら、クリエイターや素材利用者が知っておくべき重要なポイントをお伝えします。
ロイヤリティフリーとは何か
ロイヤリティフリーという言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、その正確な意味を理解している方は意外と少ないかもしれません。ロイヤリティフリーとは、一度ライセンスを購入すれば使用するたびに追加料金を支払う必要がない素材のライセンス形態を指します。ここで注意が必要なのは、「フリー」という言葉が付いていても「無料」を意味するわけではないという点です。初回購入時にライセンス料を支払えば、その後は規約の範囲内で何度でも使用できるという意味での「フリー」なのです。
このライセンス形態が広く普及した背景には、企業のマーケティング活動における効率性とコスト管理の容易さがあります。従来のライツマネージド方式では、素材を使用するたびに料金が発生するため、長期的なキャンペーンや複数の媒体で同じ素材を使用する場合、コストが膨らんでしまうという問題がありました。これに対してロイヤリティフリーは、予算管理がしやすく、特に長期的な使用を前提とした場合に大きなコストメリットがあるため、企業のウェブサイト制作や広告制作の現場で広く採用されるようになったのです。
グローバル市場における成長と矛盾
ロイヤリティフリー素材の価格低下について理解するためには、まずグローバル市場の全体像を把握することが重要です。2024年から2025年にかけてのストックイメージ市場のグローバル規模を見ると、複数の市場調査機関によって報告されているデータは興味深い傾向を示しています。世界のストックイメージ市場規模は2024年には約37億ドルから61億ドルの範囲で評価されており、2032年から2033年にかけては55億ドルから106億ドルに達すると予測されています。
年平均成長率については約4.5パーセントから7.4パーセントの範囲で予測されており、市場全体としては堅調な成長が見込まれている状況です。この成長の主な推進力となっているのは、電子商取引とデジタル広告の台頭であり、特にアジア太平洋地域において企業がデジタルに精通した消費者にリーチしようとする動きが活発化していることが挙げられます。ストックフォト業界の価値は2025年までに50億ドルを超えると予想されており、グローバル規模での市場拡大は今後も継続する見通しです。
しかしここに大きな矛盾が存在します。市場全体としては成長を続けているにもかかわらず、個々のクリエイターや素材単価のレベルでは価格低下が進行しているのです。この一見矛盾した状況こそが、現在のロイヤリティフリー素材市場が抱える最も重要な問題であり、その原因を解明することが本記事の目的となります。
AI画像生成技術がもたらした革命的変化
ロイヤリティフリー素材の価格低下における最大の要因として挙げられるのが、AI画像生成技術の急速な発展です。2025年現在、DALL-E 3.5、Midjourney v7、Stable Diffusion XL 2.0、Google Imagen Pro、Adobe Fireflyなど、多様なAI画像生成ツールが存在し、誰でも簡単にテキストプロンプトから高品質でフォトリアリスティックな画像を数秒で生成できるようになっています。
このAI技術の進化が市場に与えた影響は計り知れません。従来、プロのカメラマンやイラストレーターが時間とコストをかけて制作していた素材が、AIによって極めて短時間かつ低コストで生成できるようになったのです。具体的な数字を見ると、AI画像生成のコストは従来の制作方法の100分の1以下とされ、1枚あたりの初期コストは50円未満にまで下がっています。この圧倒的なコスト優位性により、新規に投稿されるストック素材の多くがAI生成画像で占められるようになり、素材の供給量が爆発的に増加しました。
供給過多の状態は経済原則として必然的に価格下落圧力となります。AI生成画像の大量流入は、従来型の写真やイラストの価格にも影響を及ぼし、市場全体の価格水準を押し下げる結果となっています。業界への影響は深刻であり、2025年1月には業界大手のゲッティイメージズとシャッターストックが合併を模索していることが報じられました。これは生成AIによってストックフォト業界の市場環境が激変していることを象徴する出来事といえます。
各プラットフォームのAI画像への対応も分かれています。Adobe Stock、PIXTA、MotionElementsではAI生成画像の販売が可能となっている一方、iStockやShutterstockといった大手2社ではAI生成画像の販売に制約が設けられています。このようなプラットフォームごとの方針の違いも、市場全体の価格構造に影響を与えています。実際にAI画像生成でストックイラスト販売を行ったクリエイターの報告によれば、当初は収益がかなり伸びたものの、その後徐々に減少し、現在は安定しているという状況です。これはAI生成画像の初期段階では希少性があったものの、参入者が増えるにつれて競争が激化し価格が下落していったことを示しています。
定額制プランがもたらしたクリエイター報酬の低下
ロイヤリティフリー素材の価格低下を招いているもう一つの大きな要因が、定額制プラン、いわゆるサブスクリプションモデルの普及です。このビジネスモデルは、Shutterstockの創業者であるジョン・オリンガーが事業を開始した際、月額約60ドルで無制限ダウンロードを提供したことに端を発します。定額制プランは購入者側にとっては非常に魅力的なシステムです。月額または年額の固定料金を支払えば、決められた枚数あるいは無制限に素材をダウンロードできるため、大量の素材を必要とする企業や制作会社にとってはコストパフォーマンスが極めて高くなります。
しかしこの仕組みは、クリエイター側にとっては深刻な収益減少をもたらしています。単品購入と定額制ダウンロードでは、クリエイターが受け取る報酬に大きな格差が生じているのです。具体的な数字を見ると、あるクリエイターの報告によれば、XLサイズの写真が単品購入された場合は1,760円の収益が得られたのに対し、同じ写真が定額制プランでダウンロードされた場合の報酬はわずか25円でした。実に70倍以上の差があることになります。
Adobe Stockでは月間750枚購入プランの場合、クリエイターへの1点あたりの報酬が約44円という低水準になっています。またPIXTAにおいても定額制9枚のダウンロードで報酬が247円という事例が報告されており、これは1枚あたり約27円という計算になります。定額制プランでのクリエイター報酬は、サイトによって異なりますが、一般的に数円から数百円の範囲に収まることが多く、Adobe Stockの平均報酬が約100円前後とされています。
このような報酬体系の変化により、かつて数億円を売り上げた経験を持つクリエイターでさえ、価格競争の激化を理由に写真投稿をやめたという事例も報告されています。定額制モデルの普及は、クリエイターの収益機会を減少させ、結果として市場全体の素材価格を押し下げる要因となっているのです。
競合激化と参入障壁の低下による影響
ストックフォト市場における価格低下の第三の要因は、競合の激化と参入障壁の低下です。デジタルカメラやスマートフォンの高性能化、画像編集ソフトの普及により、誰でも比較的容易に高品質な画像を制作できるようになりました。さらに前述のAI画像生成技術により、専門的な撮影技術やデザインスキルがなくても、商品として通用するレベルの素材を作成できるようになっています。
この技術的な参入障壁の低下は、市場への新規参入者を大幅に増加させました。多くの個人クリエイターがストックフォト市場に参入し、素材の供給量は飛躍的に増大しています。供給が需要を大きく上回る状況では、価格競争が激化するのは経済原則として当然の帰結です。またストックフォトプラットフォーム自体も増加しており、PIXTA、Adobe Stock、Shutterstock、iStockといった大手に加え、中小規模のプラットフォームも多数存在します。
プラットフォーム間の競争も価格低下圧力となっています。各プラットフォームは顧客獲得のために価格競争力を高める必要があり、その結果としてクリエイターへの支払額を抑制する傾向が生まれています。この構造的な問題により、クリエイターは自身の作品の価値を適切に評価されにくくなっており、市場全体として素材の価格が下落し続けているのです。
主要プラットフォームの報酬構造を比較する
ロイヤリティフリー 素材 価格低下 原因 市場分析を深めるために、主要なストックフォトプラットフォームの報酬構造を比較することは重要です。それぞれに特徴があり、クリエイターの収益性に大きな影響を与えています。
PIXTA（ピクスタ）は、動画の報酬単価がストックサイトの中でも最高水準とされており、動画1本が9,000円で売れた場合、手取り報酬額は売上の40パーセントから50パーセント程度です。最大サイズがエクストラライセンスで購入されると、一回のダウンロードで8,000円の報酬を得ることも可能です。日本市場に特化しているため、日本人モデルや日本の風景などの素材が求められる場合に強みを発揮します。
Adobe Stock（アドビストック）は、動画のダウンロードで6,682円の報酬が得られることもあり、通常でも3,360円や4,199円といった報酬が報告されています。あるクリエイターの15か月間の収益比較では、Adobe Stockが145,452円、PIXTAが60,624円という結果が報告されており、Adobe Stockの収益性の高さが示されています。
Shutterstock（シャッターストック）は、世界規模で利用者が多く、ダウンロード数は他のプラットフォームと比較して多い傾向にありますが、1点あたりの報酬単価は低いという特徴があります。売れる数は多いものの、なかなか金額が伸びないという声が多く聞かれます。PIXTAは売れた枚数は他社と比較して少ないものの、単価が高いためそれなりの金額になるという傾向があります。
このようにプラットフォームごとに報酬構造や市場特性が異なるため、クリエイターは自身の素材の特性や戦略に応じて、複数のプラットフォームに素材を登録するマルチプラットフォーム戦略を採用することが一般的となっています。
クリエイターの実際の収益状況から見える現実
理論的な報酬単価だけでなく、実際のクリエイターの収益状況を見ることで、市場の実態がより明確になります。複数のクリエイターが自身の収益を公開しており、その実態は厳しいものです。ある副業としてストックフォトに取り組んでいるクリエイターは、PIXTA、Shutterstock、Adobe Stock、iStock、Getty Imagesの5つのサイトに登録し、2024年の年間売上が43,197円、つまり月平均約3,600円だったと報告しています。
別のクリエイターは、3年間ストックフォトを続けた結果として、月収が数千円から1万円程度にとどまっていると述べています。これらの数字は、ストックフォトで安定した収益を上げることの難しさを如実に示しています。AI生成イラストで約2年間ストック販売を行ったクリエイターの報告では、初期段階では収益が大幅に伸びたものの、その後徐々に減少し、現在は安定しているという状況です。
この事例は、新しい技術や手法が登場した初期段階では先行者利益を得られる可能性があるものの、参入者が増えるにつれて競争が激化し収益が平準化されていくという市場の動態を示しています。一方で、ニッチな分野や高度な専門性を持つ素材を提供しているクリエイターの中には、比較的安定した収益を維持している例もあります。累計収益が10万円を超えたというクリエイターも存在しますが、これは多数のクリエイターの中では成功例に分類されるものです。
無料素材サイトが及ぼす価格圧力
有料のロイヤリティフリー素材市場に影響を与えているもう一つの要因が、無料素材サイトの存在です。Unsplash、Pixabay、写真ACといった無料で高品質な素材を提供するサイトが広く利用されるようになっており、これらは有料ストックフォトサービスの競合として機能しています。Unsplashは世界トップクラスのハイクオリティ画像が無料でダウンロードできるサイトとして知られ、現在では月間5,000万枚以上の画像がダウンロードされています。
写真ACは日本人の被写体や日本の風景など、日本市場に特化した無料素材を提供しており、ユーザー登録は必要ですが基本的に無料で利用できます。これらの無料素材サイトの存在により、特に予算が限られている小規模事業者や個人クリエイターは、有料サービスを利用する必要性が減少しています。この状況は、有料ストックフォトサービスに価格競争力を高める圧力を生み出しています。
ただし有料サービスには独自の価値も存在します。有料サイトの素材は利用者が限られているため、独自性が高く、競合他社と差別化したいプロジェクトや特別なビジュアルが必要な場合に効果的です。また有料サービスは法的なサポートや高度な検索機能、より専門的で希少な素材を提供しているという点で差別化を図っています。無料素材サイトと有料サービスは完全な競合関係ではなく、ある程度は補完的な関係にあると考えられます。しかし無料サイトの品質向上と素材数の増加は、確実に有料サービスの価格設定に影響を与えており、価格低下の一因となっています。
日本市場における特徴と課題
グローバル市場の動向と日本市場の状況には、いくつかの特徴的な違いがあります。日本のストックフォト市場は、PIXTAという国内最大手のプラットフォームが大きな存在感を示しています。PIXTAは日本人モデルや日本の風景、日本文化に関連した素材に強みを持っており、日本企業のニーズに応える形で成長してきました。
日本市場では、言語や文化的な要因から、日本人が写っている素材や日本の風景、日本語の看板やパッケージが写っている素材などへの需要が根強く存在します。これらの素材は海外のストックフォトサービスでは入手しにくいため、PIXTAのような国内サービスが競争優位性を維持できている要因となっています。しかし日本市場も価格低下の影響を免れることはできません。
AI画像生成技術は言語の壁を越えて普及しており、日本でも多くのクリエイターがAI生成素材を投稿しています。また定額制プランの普及による収益減少も、日本市場においても同様に発生しています。2019年に東京で開催されたストックフォト業界の世界的イベントでは、日本市場の成長可能性について議論されました。アジア太平洋地域における電子商取引とデジタル広告の成長が、日本を含む地域のストックフォト需要を押し上げる要因として期待されています。
クリエイターが収益を改善するための戦略
価格低下圧力が強まる市場環境の中で、クリエイターが収益を維持・改善するためには、戦略的なアプローチが必要とされています。実際に成果を上げているクリエイターの事例や専門家のアドバイスから、いくつかの有効な戦略が明らかになっています。
まず重要なのは、継続的かつ計画的な素材投稿です。成功しているクリエイターは、週に10枚から20枚、あるいは毎日3枚から4枚の新しい素材を投稿することを推奨しています。この継続的な投稿により、検索結果での露出機会が増え、長期的な収益の積み上げが可能になります。季節やイベントに合わせたコンテンツ制作も効果的な戦略です。2025年夏に売れる写真として、海や夏祭り、花火大会などの季節感を活かした素材が挙げられています。企業のマーケティング活動は季節やイベントに連動することが多いため、こうしたタイミングを見越した素材制作は需要を捉えやすくなります。
複数プラットフォームへの同時登録も重要な戦略です。Adobe Stock、PIXTA、Shutterstock、iStock、Photo ACなど、複数のプラットフォームに同じ素材を登録することで、収益機会を最大化できます。各プラットフォームには異なる顧客層や地域的な強みがあるため、マルチプラットフォーム戦略により幅広い市場にリーチできます。SEO最適化とキーワード戦略も収益に大きく影響します。素材のタイトル、説明文、タグに適切なキーワードを設定することで、検索結果での上位表示が可能になり、ダウンロード数の増加につながります。
AI技術の活用も、効率的な素材制作の手段として注目されています。Adobe Fireflyなどの商用利用可能なAI画像生成ツールを使用することで、制作時間を大幅に短縮し、多様なバリエーションの素材を効率的に生成できます。ただしAI生成素材の市場が飽和しつつある現状では、単純なAI生成だけでなく、独自の編集や付加価値を加えることが差別化につながります。ニッチ市場への特化も有効な戦略です。競合が少ない専門分野や特定の業界に特化した素材を提供することで、価格競争を避けつつ、専門性を求める顧客からの継続的な需要を獲得できる可能性があります。
AI生成画像の著作権と法的課題
AI技術の急速な普及に伴い、AI生成画像の著作権や法的問題が重要な課題として浮上しています。2025年の時点で、この分野の法的枠組みは発展途上にあり、クリエイターやプラットフォーム、利用者すべてが注意を払う必要があります。日本における法的枠組みとして、著作権法第30条の4により、AI学習のために著作物を利用することは、原則として著作権者の許諾なく可能とされています。
これはAI学習が著作物の「情報解析」に該当し、作品そのものを「享受」する行為ではないと解釈されているためです。この規定により、日本ではAI技術の開発と学習が比較的自由に行える環境が整備されています。しかしAI生成物が既存の著作物と類似性と依拠性を持つ場合、著作権侵害が成立する可能性があります。この場合、責任を負うのはAI提供者ではなく利用者とされるため、AI生成素材を販売するクリエイターは慎重な確認が必要です。
2025年における法的動向として、いくつかの重要な訴訟事例が報告されています。2025年8月には読売新聞がPerplexity AIを約22億円で提訴し、その後朝日新聞と日経新聞が44億円規模の訴訟を提起しました。これらは著作権侵害と不正競争を理由とするもので、AI企業が報道機関のコンテンツを無断で学習データとして使用したことが問題視されています。また2025年2月にはアメリカの連邦裁判所がThomson Reuters対Ross Intelligence事件において、法律データベースの著作物をAIの訓練データとして使用したことに対して著作権侵害を認める判断を下しました。
ライセンスと商用利用の問題も複雑です。一部のAI画像生成ツールは、無料ユーザーに対してCreative Commons NC 4.0ライセンスを適用しており、これは複製や改変は可能ですが、商用利用やサブライセンスは禁止されています。そのためストックフォトとして販売する目的でAI生成画像を作成する場合、商用利用が明確に許可されているツールを使用する必要があります。Adobe Fireflyのように商用利用を明確に許可し、学習データの出所を管理しているサービスもあります。
NFTとブロックチェーンが拓く新しい可能性
従来のストックフォトビジネスモデルが価格低下の課題に直面する中、NFT（非代替性トークン）とブロックチェーン技術が、デジタルコンテンツの新しい収益化モデルとして注目されています。NFT市場の成長は著しく、2021年のNFT取引高は約4兆7100億円に達しました。市場予測では2025年には9兆1000億円を超えると見込まれており、ブロックチェーン市場全体では2030年までに58兆円規模に成長すると予測されています。
NFTの最も重要な特徴の一つは、ブロックチェーン上にデジタルデータの真正性証明と所有権証明を記録できる点です。これにより、従来は複製が容易でオリジナルと非オリジナルの区別が困難だったデジタルコンテンツに、希少性と独自性を付与することが可能になります。写真やイラストなどのデジタル素材も、NFT化することでユニークな作品として価値を持たせることができます。
スマートコントラクト機能も、クリエイターにとって革新的な要素です。NFTにはスマートコントラクトを組み込むことができ、二次流通時にも自動的に原作者にロイヤリティが支払われる仕組みを実装できます。従来のストックフォトでは一度販売した後の再販売や転売から収益を得ることは困難でしたが、NFTを活用すれば、作品が転売されるたびに一定割合の収益を継続的に得ることが可能になります。
日本企業もNFTの独自性という特性を活かし、アート、グッズ、権利などのデジタル資産を中心とした新しいビジネスを展開しています。ストックフォト業界への応用可能性として、限定版デジタルアート作品としてNFT化した写真やイラストを販売することで、従来のストックフォトよりも高い価格設定が可能になる可能性があります。ただしNFT市場には課題も存在します。市場の変動性が高く投機的な要素が強いため、安定した収益源としては不確実性が伴います。
2025年の企業におけるビジュアルコンテンツ利用トレンド
ストックフォト市場の需要側である企業や制作者のビジュアルコンテンツ利用傾向も、市場動向に大きな影響を与えています。2025年のトレンドを理解することは、クリエイターが市場ニーズに合った素材を提供する上で重要です。2025年のビジュアルコンテンツ戦略において、最も重要なキーワードは「信頼」と「真のつながり」です。
世界最大級のストックフォトサイトiStockが発表した2025年マーケティングトレンドレポートによれば、信頼が成功を決定づけ、ビジュアルコンテンツはオーディエンスとの真のつながりを築くための重要なツールとされています。この傾向を反映して、企業は洗練された完璧さよりも、人間的で正直で深い関連性を感じさせるビジュアルを重視するようになっています。過度に編集された人工的な画像から、リアリティと親近感を感じさせる素材へのシフトが進んでいます。
「リアルユーザーコンテンツ（RUC）」という新しいコンセプトも提唱されています。これはAI生成されたコンテンツから、実際の人々や現実の状況を撮影した「リアル」を示す画像や動画へと移行する動きを表しています。消費者がAI生成コンテンツに対して懐疑的になりつつある中、本物らしさや透明性を重視する傾向が強まっています。色彩とトーンのトレンドとしては、自然な明るさと少し淡めの色調が人気を集めています。ナチュラルカラーがトレンドとなっており、過度に彩度の高い派手な画像よりも、目に優しく落ち着いた色味の素材が好まれています。
季節性とイベント連動のコンテンツ需要も依然として重要です。2025年夏に売れる写真として、海、夏祭り、花火大会、BBQ、ビアガーデン、冷たい飲み物、涼しげな風景などが挙げられています。企業のマーケティングカレンダーに合わせた素材の需要は年間を通じて存在し、クリエイターが先回りして制作することで販売機会を増やせます。
市場の構造変化と今後の展望
これまで見てきたように、ロイヤリティフリー素材市場は複数の要因により価格低下圧力にさらされています。AI技術の進化、定額制プランの普及、競合の激化、無料素材サイトの存在といった要因が複合的に作用し、市場構造そのものが変化しています。今後の展望として、いくつかのシナリオが考えられます。
第一に、AI技術のさらなる進化により、素材制作のコストは今後も低下し続ける可能性が高いと考えられます。これは供給量の増加を意味し、価格低下圧力は継続するでしょう。一方でAI生成では対応できない高度な専門性や独自性を持つ素材への需要は残り続けると予想されます。第二に、大手プラットフォームの統合や再編が進む可能性があります。ゲッティイメージズとシャッターストックの合併検討は、この動きの先駆けかもしれません。市場の成熟化と競争激化により、規模の経済を追求する動きが加速する可能性があります。
第三に、クリエイター側の戦略変化が予想されます。単純な素材販売だけでなく、カスタマイズサービスや専門的なコンサルティング、独自のブランド構築など、付加価値を高める方向へのシフトが進むと考えられます。第四に、法的な整備や業界標準の確立が重要性を増すでしょう。AI生成画像の著作権問題や、プラットフォームとクリエイター間の公平な報酬分配など、解決すべき課題が多数存在します。
まとめ
ロイヤリティフリー素材の価格低下は、技術革新、ビジネスモデルの変化、市場構造の変化という複数の要因が組み合わさって生じている現象です。グローバル市場全体としては成長を続けているものの、個々のクリエイターや素材単価のレベルでは厳しい状況が続いています。AI画像生成技術の進化は制作コストを劇的に引き下げ、参入障壁を低下させました。定額制プランの普及は購入者にとっての利便性を高める一方で、クリエイターの収益を圧迫しています。無料素材サイトの存在も、価格競争を激化させる要因となっています。
このような環境下で、クリエイターが持続可能なビジネスを構築するためには、単なる素材販売を超えた価値提供が求められています。専門性の深化、独自性の追求、付加価値サービスの提供など、差別化戦略が重要性を増しています。一方プラットフォーム側も、クリエイターが適切な報酬を得られる仕組みの構築と、購入者にとっての利便性やコストパフォーマンスのバランスを取ることが課題となっています。ロイヤリティフリー素材市場は今後も技術革新と市場環境の変化により、継続的な変革を経験することになるでしょう。この変化の中で、質の高い素材を提供し続けるクリエイターへの適切な報酬体系をいかに維持するかが、業界全体の健全な発展にとって重要な課題となっています。
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