2025年のストックフォト市場では、多くのクリエイターが収益の激減に直面しています。世界市場全体は年平均成長率約7%で拡大を続け、2030年には70億ドル(約1兆円)規模に達すると予測されているにもかかわらず、個々のフォトグラファーやイラストレーターの月間収益は前年比50%から70%も下落しているケースが報告されています。この矛盾した現象の背景には、生成AIの急速な普及、サブスクリプションモデルの完全な覇権、無料素材プラットフォームの台頭、そしてプラットフォーム企業による報酬体系の改悪という複合的な構造要因が存在します。かつてストックフォト市場の価値は「高品質な画像そのもの」にありましたが、2025年現在では市場価値の重心が「画像」から「データ」へ、「ライセンス販売」から「AI生成ツールの利用料」へと完全に移行しており、クリエイターは従来の「画像を売る」というビジネスモデルの根本的な見直しを迫られています。本記事では、ストックフォト単価下落の真の原因を多角的に分析し、2025年から2026年に向けた市場動向と生存戦略について詳しく解説していきます。

2025年ストックフォト市場の現状と矛盾する成長データ
2025年のストックフォト市場を俯瞰すると、マクロ経済データと現場のクリエイターが体感する現実との間に大きな乖離が生じています。最新の市場調査レポートによれば、世界のストックフォト市場は2025年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)約7%で拡大し、2030年には70億ドル(約1兆円)規模を超えると予測されています。北米市場は依然として最大のシェア(約38%)を維持しており、デジタルマーケティング、Eコマース、ソーシャルメディア広告の需要が市場全体を牽引しています。また、アジア太平洋地域(APAC)もモバイルコマースの普及とクリエイターエコノミーの台頭により、最も高い成長率を記録しています。
しかしながら、この「バラ色の未来」を示すマクロデータとは裏腹に、個々のフォトグラファーやイラストレーターが直面している現実は極めて厳しいものとなっています。2024年から2025年にかけて、多くのベテランコントリビューターが月間収益の大幅な減少を報告しており、前年比で50%から70%もの収益減を経験しているケースも珍しくありません。市場全体のパイが大きくなっているにもかかわらず、末端の生産者であるクリエイターの取り分がこれほどまでに縮小している理由は、「市場価値の源泉」の劇的な変化にあります。
ShutterstockやAdobe Stockといった主要プラットフォーム企業は、従来の画像販売会社から「AIデータプロバイダー」へと業態転換を果たしており、OpenAIやMetaなどの巨大テック企業とのデータライセンス契約によって記録的な利益を計上しています。一方で、そのデータの源泉である画像を提供したクリエイターには、AI学習の対価としての微々たる一時金か、希薄化したロイヤリティしか還元されていないのが実情です。この構造的な富の移転こそが、2025年のストックフォト市場における「単価下落」の本質であり、一時的な不況ではなく産業構造の不可逆的な変容を示しています。
画像のコモディティ化と限界費用ゼロへの収束
経済学の基本原則として、財の供給が無限に近づき、その生産にかかる限界費用(追加の1単位を生産するコスト)がゼロに近づけば、価格もまたゼロに収束するという法則があります。2025年のストックフォト市場で起きているのは、まさにこの現象の極致といえます。
生成AI(Generative AI)の普及は、画像の供給能力を「有限」から「無限」へと根本的に変えました。Stable Diffusion、Midjourney、そしてAdobe Fireflyなどのツールは、専門的なスキルや高価な機材を持たない一般ユーザーであっても、プロレベルの画像を数秒で生成することを可能にしました。これにより、従来のストックフォトが担っていた「会議室の風景」「握手するビジネスマン」「美しい夕焼け」といった汎用的なイメージの希少性は完全に消滅しました。
需要側(バイヤー)の心理も大きく変化しています。かつては数千円を支払って購入していた画像が、月額数千円のAIツールで無制限に生成できるようになったため、画像1枚に対する支払意思額(WTP: Willingness to Pay)は劇的に低下しました。これは「価格のアンカー効果」として市場全体に波及しており、人間が撮影した高品質な写真であっても、AI生成物のコスト(ほぼゼロ)と比較され、値下げ圧力を受ける結果となっています。
RPD(1ダウンロードあたり収益)低下の構造的要因
ストックフォトの収益性を測る上で最も重要な指標がRPD(Return Per Download:1ダウンロードあたりの収益)です。2025年において、このRPDが歴史的な低水準に落ち込んでいる背景には、AI以外にも複合的な要因が絡み合っています。
サブスクリプションモデルの完全覇権と収益希薄化
2025年のストックフォト市場において、単品購入(オンデマンド)モデルは事実上崩壊し、サブスクリプション(定額制)モデルが完全に覇権を握りました。これは消費者にとっては利便性の向上を意味しますが、クリエイターにとっては「収益の希薄化」を意味します。
大手マイクロストックサイト(Shutterstock、Adobe Stock、iStockなど)の主力プランは、月額定額で数十点から数百点の画像をダウンロードできるサブスクリプションとなっています。例えば、月額3,000円で10点の画像をダウンロードできるプランであれば、画像1枚あたりの販売価格は300円となり、クリエイターへの報酬(ロイヤリティ率が20%と仮定)は60円です。しかし、ヘビーユーザー向けの「月額25,000円で750点」といったプランでは、画像1枚あたりの理論単価は約33円にまで低下し、クリエイターの手取りはわずか5円から7円程度にしかなりません。
さらに深刻なのが、Envato ElementsやCanva Pro、Freepik Premiumに代表される「無制限ダウンロード(All-you-can-eat)」モデルの台頭です。ShutterstockによるEnvatoの買収は、このトレンドが決定的であることを象徴しています。これらのプラットフォームでは、ユーザーは定額料金を支払えば素材を無制限に利用でき、クリエイターへの報酬は「総収益プールにおける自身のダウンロードシェア」によって決定される「分配方式(Subscriber Share Model)」が採用されています。この方式では、プラットフォーム全体のダウンロード数が増えれば増えるほど、1ダウンロードあたりの単価価値は限りなく希薄化していきます。2025年には、多くのクリエイターが「ダウンロード数は過去最高を記録したが、収益は横ばいか減少した」という現象を経験していますが、その主因はこの定額制モデルの構造にあります。
無料ストックフォトプラットフォームによる価格破壊
Unsplash、Pexels、Pixabayといった無料ストックフォトサイト(Free Stock Photo Sites)の存在は、有料市場の価格決定力を根底から揺るがしています。Unsplashは当初、「高品質な無料写真」を提供するコミュニティとして発足しましたが、2025年現在ではGetty Images傘下となり、「Unsplash+(アンスプラッシュ・プラス)」という有料サービスを展開しています。しかし、その根底にある「基本無料」という文化は変わっていません。
無料サイトのクオリティは年々向上しており、Webメディアの記事アイキャッチ、SNS投稿、プレゼンテーション資料といった一般的な用途であれば、無料素材で十分に事足りるケースが大半です。これにより、有料ストックフォトを購入する必然性は、「モデルリリース(肖像権使用許諾)が確実に必要な商業広告」や「他社と被りたくない独占的なビジュアル」といった限定的な領域に追いやられました。
また、多くの写真家が知名度向上やポートフォリオとしての露出を求めて、高品質な作品を無料サイトに提供し続けています。これが「無料の良貨が有料の良貨を駆逐する」状況を生み出しており、企業やデザイナーは「なぜこれと同等のクオリティのものが無料で手に入るのに、有料サイトで金を使う必要があるのか」という疑問を抱くようになり、有料サイト側も対抗策として価格を下げざるを得ない状況に追い込まれています。
プラットフォームによる報酬体系の改悪
プラットフォーム側が行う一方的な報酬体系の変更も、単価下落の直接的な原因となっています。Shutterstockは2020年に導入した「毎年1月1日にコントリビューターのランクを最低レベルにリセットする」という制度を2025年も継続しています。この制度下では、前年にどれだけ実績を上げても、1月1日時点では報酬率が最低の15%から再スタートとなります。多くのクリエイターにとって、販売数が積み上がりランクが上がるまでの1月から3月頃までは、実質的な報酬減額期間となり、年間の平均RPDを押し下げる要因となっています。
Adobe Stockは比較的高い単価を維持していると評価されてきましたが、2024年から2025年にかけて、通常ライセンス販売の減少を補う形で「Fireflyボーナス(AI学習への協力報酬)」の比重が高まっています。しかし、このボーナスは年に一度の一時金であり、毎月の安定したライセンス収入の減少を完全に補填できるものではありません。また、無料コレクションへの提供プログラム(Nomination)への参加を促す通知も頻繁に行われており、これに応じることで一時金は得られるものの、自身の作品が1年間無料で配布されることになり、長期的には収益基盤を損なう結果につながっています。
生成AIがもたらした供給過剰の衝撃
2025年、生成AIは単なる「新しいツール」ではなく、ストックフォト業界を根本から変革する存在となっています。2022年から2023年にかけての初期のAI画像は、指の数が多かったり、背景が歪んでいたりと、一目でAIとわかる欠陥がありました。しかし、2025年の最新モデル(Midjourney v7やAdobe Firefly Image 3 Modelなど)は、これらの欠点をほぼ完全に克服しています。「写真のようなリアルさ(Photorealism)」において、人間の目では区別がつかないレベルに達しています。
代替財としてのAI画像の完成
従来、ストックフォトの強みの一つは「ニッチなシチュエーション」に対応できることでした。例えば「宇宙服を着てノートパソコンを開く猫」のような写真は、実際に撮影するには多大なコストがかかるため、ストックフォトとしての価値がありました。しかし、AIはこうした非現実的、あるいは撮影困難なシチュエーションの画像を生成することに最も長けています。結果として、クリエイティブな合成写真やコンセプトフォトの市場価値は、AIによって大きく損なわれました。
Adobe StockやShutterstock、123RFなどの主要プラットフォームは、AI生成画像の投稿を(ラベリングを条件に)許可しています。これにより、人力では不可能なスピードと量で、AI画像が市場に供給されています。AdobeのFireflyだけでも、サービス開始から数ヶ月で30億枚以上の画像が生成されたと報告されています。これだけの量の画像が市場に流入すれば、検索結果における人間の写真の露出(インプレッション)が激減するのは必然です。実際に、Adobe Stockでは「審査拒否率の急増」や「検索順位の低下」が多くのコントリビューターから報告されており、これはAI画像によるインデックスの飽和が主因と考えられます。
AI学習データとしての画像利用をめぐる問題
クリエイターにとって受け入れがたい事実は、自分たちが過去に投稿した写真が、自分たちの仕事を奪うAIの学習に使われているという点です。ShutterstockやAdobe Stockは、投稿された画像をAIモデルのトレーニングデータとして利用する権利を規約に盛り込んでいます。ShutterstockはOpenAIやMetaなどの巨大テック企業とデータライセンス契約を結んでおり、その収益は急成長しています。しかし、その収益がどの程度クリエイターに還元されているかは不透明です。
Adobe StockのFireflyボーナスやShutterstockのコントリビューターファンドは存在しますが、多くのクリエイターは「自分の作品がAIの餌になり、その結果としてライセンス販売が減る損失に見合う額ではない」と感じています。日本では、著作権法第30条の4により、情報解析(AI学習を含む)を目的とした著作物の利用は、原則として著作権者の許諾なく行えることになっています。これはAI開発企業には有利ですが、クリエイターにとっては防衛手段が限られていることを意味します。一部のプラットフォームやツールでは「オプトアウト(学習拒否)」の設定が可能ですが、すでに学習されてしまったモデルからデータを取り除くことは技術的に困難であり、実効性には疑問が残ります。
日本市場(PIXTA)の特殊事情と法的環境
日本国内のストックフォト市場は、世界市場のトレンドと連動しつつも、独自の課題と法的環境の中にあります。国内最大手のPIXTA(ピクスタ)を中心に、2025年の日本市場の状況を見ていきます。
PIXTAの事業構造転換
PIXTAは、日本人モデルや日本の風景・文化に特化した素材を提供することで、外資系サイト(Adobe Stock, Shutterstock)との差別化を図ってきました。しかし、2025年の経営方針によれば、主力のストックフォト事業は「緩やかな減少傾向」にあり、収益維持のための施策が必要なフェーズに入っています。
PIXTAもまた、画像販売一本足打法からの脱却を図っており、「機械学習データ提供サービスの進化」を戦略の柱に据えています。顔認証システムや生成AIの開発企業向けに、権利関係がクリアな日本人画像データセットを販売するBtoBビジネスを強化しています。これは企業としてのPIXTAにとっては合理的な生存戦略ですが、個々のクリエイターにとっては、自身の写真がライセンス販売される機会が減り、間接的なデータ販売の一部として扱われることを意味します。
インボイス制度の影響
日本特有の事情として、2023年10月から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)の影響が2025年になっても色濃く残っています。企業側が仕入税額控除を受けるために適格請求書の発行を求めるようになった結果、課税事業者登録をしていない副業クリエイターや主婦・学生フォトグラファーの作品が敬遠される傾向にあります。また、事務手続きの煩雑化を嫌ってストックフォト活動自体を縮小・停止するクリエイターも少なくありません。これにより、市場のプレイヤーは「本気でビジネスとして取り組む層」と「完全に趣味と割り切る層」に二極化しています。
AI生成コンテンツをめぐる著作権論争
2025年11月、OpenAIの動画生成AI「Sora 2」を巡り、日本の出版社やクリエイター団体が大規模な抗議声明を発表しました。Sora 2によって生成された動画の中に、日本の有名なアニメやマンガのキャラクター、あるいは特定の作家の画風に酷似したものが多数含まれていたことが発端です。日本の出版社19団体(集英社、KADOKAWA、スタジオジブリを含む)は、AI開発企業に対し、著作物の無断学習の即時停止と、オプトアウトの実効性確保、そして事前の許諾取得を強く求めました。
これは単なる抗議にとどまらず、実際にAI生成画像を使用した者が著作権法違反の疑いで書類送検されるという事件も発生しています。これにより、日本企業の間では「AI生成素材の使用には法的リスク(コンプライアンスリスク)がある」という認識が急速に広まっています。
「Copyright Safe」という新たな価値
この法的リスクの高まりは、皮肉にも有料ストックフォトの新たな価値を浮き彫りにしました。企業が広告や販促物に画像を使用する際、AI生成画像を使って後から著作権侵害で訴えられるリスクを避けるため、「権利関係が完全にクリアで、プラットフォームによる補償がついている有料ストックフォト」を選ぶ動きが出てきています。PIXTAやAdobe Stockなどは、自社の素材を利用して権利侵害の訴えが起きた場合の補償制度を設けており、この「安心感」こそが、AIに対する最大の差別化要因となりつつあります。
動画(ストックフッテージ)市場の展望
写真(静止画)の単価が下落する中で、多くのフォトグラファーが活路を見出しているのが「動画(Video/Footage)」の分野です。
相対的に高い単価と堅調な需要
2025年時点でも、動画素材の単価は静止画に比べて高水準を維持しています。Adobe Stockの場合、4K動画の販売単価は数千円から数万円(クレジットパック購入時)に達し、クリエイターへの報酬も1ダウンロードあたり2,000円から7,000円程度になることがあります。静止画が1枚数十円の世界であることを考えれば、動画は依然として魅力的な市場です。市場予測でも、ストックビデオ市場は2030年に向けて年平均成長率(CAGR)8.7%で成長するとされており、YouTube動画制作、企業のSNSマーケティング、デジタルサイネージなどの需要拡大が追い風となっています。
動画生成AIの進化という脅威
しかし、この動画市場も安泰ではありません。Sora 2やRunway Gen-3などの動画生成AIの進化スピードは目覚ましく、数秒から数十秒の高品質な動画クリップであれば、テキストプロンプトから容易に生成できるようになっています。特に、「ドローンによる空撮風景」「燃え上がる炎」「水面の波紋」といった抽象的な背景素材(Bロール)は、AIが最も得意とする分野であり、実写素材の需要は今後急速にAIに置き換わっていくと予想されます。一方で、人間の表情の微細な変化や、特定の場所・イベントの記録映像など、ドキュメンタリー性の高い動画は、AIによる代替が難しく、価値が維持されると考えられます。
プラットフォーム別・2025年クリエイター収益の実態
実際にどのサイトが稼げるのかという点について、2025年の最新状況をプラットフォーム別に見ていきます。
Adobe Stock
収益性は相対的に最も高く、多くのクリエイターにとって主力(収益の50%以上を占めるケースも)となっています。単価は数十円から数百円のレンジが多く、他社よりは良好な状況です。ただし、審査が極めて厳格化しており、理由が不明確な「技術的な問題」や「知的財産権の侵害の疑い」によるリジェクト(却下)が増加しています。また、AI画像の大量投稿によるサーバー負荷増大の影響か、審査期間が長期化する傾向もあります。戦略としては、Fireflyボーナス狙いで数を打つか、AIには真似できない「人物の自然なライフスタイル」に特化するかが鍵となります。
Shutterstock
ダウンロード数は多いものの、単価が極めて低く、1ダウンロードあたり0.1ドル(約15円)から0.4ドル程度が中心です。ランクがリセットされる年初は特に苦戦します。データライセンス企業への転換を急いでおり、個々のクリエイターへの配慮は薄れています。Envato買収による定額制への完全移行が進めば、単価はさらに下がる可能性があります。ここで大きな収益を上げるには、数万点規模のポートフォリオを持つか、トレンドを先取りした素材を大量に投入する「数で勝負」の戦略が必要です。
PIXTA
日本人人物素材に関しては依然として強く、定額制でも単価は数十円から百数十円と、海外マイクロストックよりは高めです。単品購入が出れば数千円の報酬も期待できます。ただし、市場規模が国内に限られるため、爆発的な伸びは期待できません。また、競合のAdobe Stockにも日本人素材が増えているため、優位性は徐々に薄れています。独占販売(専属クリエイター)になれば報酬率が上がるため、PIXTA集中型で攻めるのも選択肢ですが、リスク分散の観点からは慎重な判断が求められます。
iStock (Getty Images)
非独占(Non-Exclusive)の場合、ロイヤリティ率は15%と業界最低水準であり、収益を上げるのは困難です。一方で、独占契約(Exclusive)を結べば25%から45%まで報酬率が上がり、検索順位でも優遇されます。ただし、独占契約を結ぶと他社(AdobeやShutterstock)で販売できなくなるため、大きな機会損失になります。「Getty Imagesブランド」の強さを信じて独占契約を結ぶか、あるいはiStockはあくまでサブの販路と割り切って放置するかの二択となり、中途半端な関わり方が最も損をするプラットフォームです。
2026年に向けた生存戦略
単価下落は構造的なものであり、もはや「待っていれば相場が戻る」ことはありません。2025年以降、ストックフォトで生き残るためには、戦略を根本から変える必要があります。
真正性(Authenticity)への回帰
AI画像が溢れれば溢れるほど、「AIっぽくない写真」の価値が逆説的に高まります。2025年のトレンドキーワードは「Unedited(未加工)」「Candid(ありのまま)」「Real Life(実生活)」です。作り込まれたスタジオ撮影や、完璧すぎるライティング、不自然に整ったモデルの写真は「AI臭い」として敬遠され始めています。逆に、フィルムカメラで撮ったような粒子感、ピントの甘さ、日常のふとした瞬間、多様な体型や肌の色を持つ人々、完璧ではない部屋の様子など、「人間味」と「リアリティ」を感じさせる写真が、広告の信頼性を担保する素材として求められています。
エディトリアルと超ニッチへの特化
AIは「過去のデータの平均値」を出力するのは得意ですが、「今ここで起きている事実」や「特定の固有名称を持つ場所・物」を作り出すことは苦手です。ニュースや報道(Editorial)として、地域の祭り、開発中の都市風景、デモ、スポーツイベントなど、「記録」としての価値がある写真はAIに代替されません。また、日本の地方都市の具体的な生活様式、伝統工芸の制作過程、特定の業界で使用される専門的な道具の使い方といった超ローカルな文化は、AIの学習データが不足しているため、狙い目の分野となっています。
マルチプラットフォームと直販(D2C)
ストックフォトサイトだけに依存するのはリスクが高くなっています。BASEやShopify、あるいはNoteなどを活用し、手数料を中抜きされずに直接顧客にデジタルデータを販売する動きが出ています。また、写真を「データ」としてではなく「アート作品(プリント)」として額装して販売することも選択肢の一つです。これは「所有欲」を満たすビジネスであり、単価下落とは無縁の世界です。さらに、ストックフォトをポートフォリオ(見本帳)として活用し、PIXTAの「fotowa」のような出張撮影サービスや、企業からの直接依頼を獲得するための営業ツールとして位置付ける考え方も有効です。
動画・3D・ベクターへの多角化
静止画(ラスター画像)は最もAIの影響を受けやすいフォーマットです。動画は前述の通りまだ単価が高く、特にスマホ向けの縦型ショート動画素材は需要過多の状態です。Illustratorで編集可能なベクターデータは、デザイナーにとって利便性が高く、AI生成(まだ完全なベクター生成は発展途上)に対する優位性があります。複数のフォーマットに対応できるスキルを身につけることで、収益源の分散を図ることができます。
まとめ
2025年のストックフォト市場における単価下落は、一時的な調整局面ではなく、AI技術の進化とサブスクリプション経済の完成による、産業構造の不可逆的な転換点です。「綺麗な写真を撮ってアップロードすれば、寝ていても売れる」という不労所得(Passive Income)の時代は終わりを迎えました。しかし、市場そのものは拡大しており、ビジュアルコンテンツへの需要はかつてないほど高まっています。重要なのは、「AIと競合する土俵(汎用的なイメージ)」から降り、「AIが模倣できない土俵(真正性、ストーリー、事実の記録)」へと戦場を移すことです。この変化を「質の高い、人間味のある作品」への回帰を促す機会と捉え、戦略的にポートフォリオを再構築することが求められています。単価が下がったのなら、単価の高い「信頼」や「共感」を売るビジネスへと進化する時なのです。

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