2025年、生成AIの普及によってクリエイティブ業界は大きな転換期を迎えています。Adobe Stockは2022年にいち早く生成AIコンテンツの受け入れを表明しましたが、その後の数年間で状況は劇的に変化しました。現在、技術的な新しさよりも、法務的な説明責任や倫理的な透明性が最重要視されるようになっています。日本のクリエイターがAdobe Stockで生成AI作品を収益化するためには、厳格な提出ルールを完璧に理解し遵守することが不可欠です。これは単なる技術的なマニュアルではなく、知的財産権の保護、商業的安全性の確保、そして法的リスクの回避という観点から、2025年時点での最新ガイドラインを日本語で詳しく解説していきます。AIツールの操作スキル以上に重要なのは、Adobeが構築する商業的に安全なコンテンツエコシステムの中で、自身の作品を適切に位置づける法的理解力です。
Adobeの責任あるAI哲学がコントリビューターに与える影響
Adobe Stockにおける生成AIコンテンツの提出ルールを理解するには、まずその背景にあるAdobeの企業戦略を把握することが重要です。同社が開発したAdobe Fireflyは、商業利用を前提として設計されている点が最大の特徴となっています。この生成AIツールは、Adobe Stockの既存コンテンツなどライセンス取得済みの素材を学習データとして使用しているため、第三者の著作権を侵害していないという確証があります。
この「クリーンな学習データ」というアプローチにより、Adobeは知的財産補償という強力な保証を企業顧客に提供できます。これは、万が一Fireflyの生成物が第三者の知的財産を侵害しているとクレームが発生した場合、Adobeが法的に顧客を防御し、金銭的損害賠償の責任を負うという画期的な仕組みです。この補償制度は、競合他社にはない大きなアドバンテージとなっています。
しかし、このAdobe独自の戦略が、Firefly以外のAIツールを使用するコントリビューターに直接的な影響を及ぼしています。Adobeが自社のFireflyで高い安全基準を確立した以上、Adobe Stockライブラリ全体の商業的安全性を維持するためには、外部AIツールで作成されたコンテンツも同等の法的清浄性が求められるようになりました。
2025年の提出ルールは、実質的に法的ファイアウォールとして機能しています。コントリビューターがMidjourneyやStable Diffusionなどの外部AIツールで作成した作品をAdobe Stockに提出する際、その行為は「この作品はFireflyの生成物と同等に商業的に安全であり、第三者のいかなる権利も侵害していない」という法的な宣誓を行うことになります。そして、使用したAIツールが生み出したコンテンツに対する全責任をコントリビューター自身が負うことが求められます。
一方で、AdobeはAIによるクリエイターの権利侵害に対して保護する姿勢も示しています。アーティストが自身の作風や肖像を意図的かつ商業的に模倣する者に対して法的措置をとれるようにする新しい連邦反なりすまし法の提唱など、クリエイター保護にも積極的です。ただし、Fireflyのトレーニングデータに既存コントリビューターのアセットを使用した点については、一部のコントリビューターから複雑な反応があります。当初の契約条件ではAIモデルのトレーニングという利用方法は想定されていなかったため、事実上の規約の遡及的変更であるという指摘も存在します。
このように、Adobeはクリエイターの知的財産を保護する立場と、クリエイターの知的財産を活用してAI市場での優位性を築く立場という、二重の役割を同時に担っています。この複雑な構造を理解することが、厳格な提出ルールの背景を読み解く鍵となります。
生成AIコンテンツの提出プロセスで最も重要なラベリング要件
Adobe Stockの哲学的背景を理解した上で、次に実務的に最も重要となるのが作品の提出とラベリングのプロセスです。ここでの小さなミスが、即座の不承認につながるため、細心の注意が必要です。
2025年現在、生成AIツールを使用して作成されたすべてのコンテンツには、Adobe Stockコントリビューターポータルでの提出時に「生成AIツールを使用して作成」というチェックボックスにチェックを入れることが絶対的な義務とされています。このラベル付けは、購入者に対する透明性を確保し、Adobe Stockコレクション全体の信頼性を担保するための根幹的なルールです。画像、ベクター、動画のすべてが対象となります。
多くのクリエイターが混乱するのが、どの程度のAI使用からこのチェックボックスが必要になるのかという点です。Adobeのガイドラインは、この境界線について非常に明確な基準を設けています。
AIアシストと見なされラベル付けが不要なケースとして、Photoshopの生成塗りつぶしや生成拡張などのAI機能を以下の目的で使用した場合が該当します。背景の拡大、知的財産であるロゴや商標の削除を含むレタッチ作業、不要なオブジェクトや人物の削除、画像背景の色の変更などです。これらは補助的な使用と見なされ、生成AIラベルの貼付は不要とされています。
一方で、AI生成と見なされラベル付けが必須となるケースは、Photoshopの生成塗りつぶしやIllustratorの生成再配色などを使用して、画像の主要な被写体を変更、強化、または新たに追加した場合です。このルールの背後にある論理は、AIが画像の核となる著作権要素を生成したか否かという点にあります。
具体的な例で考えると、写真に写り込んだ電線を消す行為は新たな著作権要素を生み出していないため、レタッチの範囲内です。しかし、風景写真にAIでドラゴンを追加する行為は、AIがドラゴンという主要な被写体を生成したことになるため、AI生成コンテンツとしてのラベル付けが必須となります。この主要な被写体テストは、クリエイターが自身の作品を分類する上で最も重要な判断基準です。
生成AIラベルを付けたコンテンツは、次に適切なアセットタイプを選択する必要があります。ここでもAI生成コンテンツに対して固有のルールが存在します。アセットタイプ：写真は、カメラで撮影されたように見え、実在の人物や動物の構造を表現する被写体に焦点を当てた生成AI画像を指します。フォトリアリスティックな作品がこれに該当します。
アセットタイプ：イラストレーションは、芸術的なイラストや概念的なファンタジーである生成AI画像を指します。現実には見られない想像上の人物、食べ物、動物、環境の描写などがこれに該当します。この分類は、ファイルの技術的な形式で決まるのではなく、購入者の期待値を管理するための分類です。写真カテゴリで検索する購入者はたとえAI生成であっても現実感を求めており、イラストレーションで検索する購入者は概念や様式美を求めています。コントリビューターは自らの作品がどの市場に向けられたものかを判断し、適切に分類する責任を負います。
知的財産とリリースの取り扱いにおける法的境界線
生成AIコンテンツの提出において、最も法的リスクが高く、Adobeが厳格な審査を行うのが知的財産とリリースの取り扱いです。ここを誤ると、アカウント停止のリスクさえあります。
従来のストックフォトでは、識別可能な人物が写っていればモデルリリースが、特定の私有財産が写っていればプロパティリリースが必要でした。生成AIは実在しない人物を生成できるため、Adobeは2025年のルールで新しいシステムを導入しました。それが「人物とプロパティは架空のものです」というチェックボックスです。
このチェックボックスの法的な意味を正確に理解することが極めて重要です。これは単なるタグではありません。コントリビューターがこのボックスにチェックを入れる行為は、「私は、この画像に描かれている人物および財産が、実在のいかなる人物や財産にも基づいておらず、完全に架空のものであることを法的に保証します」という法的宣誓に他なりません。
この宣誓により、万が一描かれているAIモデルが自分にそっくりだとして第三者が肖像権侵害の訴訟を起こした場合、その法的責任はAdobeではなく宣誓したコントリビューターが全面的に負うことになります。これは、Adobeが自社プラットフォームの法的リスクを回避し、その責任をコントリビューターに移転するための巧妙かつ必須の法的メカニズムです。なお、識別可能な人物やプロパティが一切含まれていない画像、例えば抽象的な模様や人物とは到底認識できない遠景の群衆などの場合、このチェックボックスを選択する必要はありません。
重要なのは、AIが生成したからといって従来のモデルリリースやプロパティリリースがすべて不要になるわけではないという点です。以下のケースでは、AIを使用したコンテンツであっても従来通りの署名入りリリースが必須となります。実在する特定の人物を描写、または描写することを意図してAIコンテンツを生成した場合、実在の人物の写真や動画をプロンプトとしてアップロードして使用した場合、プロンプトに特定個人の名前を指定した場合、実在する特定のプロパティである建築物などを描写またはベースにした場合です。
ここでコントリビューターが陥りやすい最大の法的トラップが、基づいているという概念です。例えば、友人の写真を撮影し、その写真をAIプロンプトのベースとして使用して架空の人物画像を生成したとします。この場合、生成された人物が元の友人とは似ていなかったとしても、法的には実在の人物に基づいて生成されたコンテンツと見なされます。AIが仲介したからといって、元の知的財産である友人の肖像権との法的なつながりは一切断ち切られません。したがって、このケースでは「人物とプロパティは架空のものです」のチェックボックスを使うことはできず、その友人から従来通りの署名入りモデルリリースを取得し提出する必要があります。
Adobe Stockは第三者の知的財産権を侵害するコンテンツの提出を厳格に禁止しています。これは生成AIにおいても同様であり、特にプロンプトやメタデータの扱いに注意が必要です。以下の要素をプロンプト、タイトル、キーワードに使用することは、いかなる場合も許可されません。著作権で保護された作品を制作したアーティストの名前、実在の人物特に著名人の名前、架空のキャラクター、第三者の知的財産であるブランド名やロゴや商標などです。
コントリビューターは、自分が使用するAIツールで生成した作品について、提出およびライセンス供与に必要なすべての権利を保有していることを保証する必要があります。キーワードに特定の有名アーティストのスタイルでと記載して提出する行為は、それ自体が知的財産侵害を自白していることになり、即座に不承認となります。
審査を通過するためのメタデータ戦略と品質管理の重要性
法的な問題をクリアしても、不適切なメタデータや低い品質管理意識によって作品は容易に不承認となります。Adobeは生成AIコンテンツのメタデータに関して明確な推奨事項と非推奨事項を定めています。
推奨されることとして、プロンプトの主要な被写体をタイトルに含めること、タイトルから単語や概念を抽出してそれらを個別に上位10個のキーワードに含めることが挙げられます。一方で推奨されないことは、タイトルやキーワードに生成AIという文言を追加すること、プラットフォーム固有の機能やプロンプトの重み付けや設定などの技術的パラメータをタイトルに含めることです。
生成AIというキーワードが非推奨である理由は、コントリビューターが生成AIツールを使用して作成チェックボックスを選択した時点で、そのアセットはシステム側で自動的に生成AIコンテンツとして分類されるためです。購入者向けのキーワードに生成AIと手動で追加する行為は、検索結果を汚染するキーワードスタッフィングと見なされます。Adobeが求めているのは作品の作成方法ではなく、作品の内容である被写体を正確に記述するプロフェッショナルなメタデータです。
生成AIの最大の利点は無限に近いバリエーションを高速で生成できることです。しかし、この利点がAdobe Stockの審査においては最大の落とし穴となります。Adobeのガイドラインは、同じまたは類似したプロンプトの繰り返しによる複数のバージョンを提出しないことと明確に警告しています。これはストックフォトの審査で伝統的に類似コンテンツと呼ばれる不承認理由と同じです。
AIを使えば色違い、構図違い、表情違いの作品を100枚生成することは容易です。しかし、その100枚すべてをアップロードする行為は、Adobeのサーバーに負荷をかけるだけでなく、購入者の検索体験を著しく低下させます。このルールが意味するのは、2025年のAIコントリビューターの主要な仕事は、もはや生成ではなく厳選であるという事実です。Adobeが求めているのは類似した100枚の画像ではなく、コレクションに独自の価値を提供する厳選された最高の1枚です。AIクリエイターは同時に冷徹な編集者でなければなりません。
さらに、生成AIで作成された画像であっても従来の写真やイラストと同じ技術的な品質基準で審査されます。AI生成画像特有の不自然な指、破綻したテクスチャ、意味不明な文字などはもちろんのこと、ソフトフォーカス、過剰なノイズ、不適切な露出、アーティファクトといった伝統的な技術的な問題によっても不承認となります。コントリビューターはAIの出力をそのまま提出するのではなく、アートディレクターとしての目で厳しく品質をチェックし、必要であればレタッチを施す必要があります。
一発で不承認となる絶対的禁止事項
これまで解説した内容に加え、Adobe Stockが責任あるAIの観点から特に厳しく禁止している重大なレッドライン違反が存在します。これらは即時の不承認あるいはアカウント停止のリスクさえ伴うものです。
第一に、生成AIコンテンツはエディトリアル・イラストレーション・コレクションに提出することが固く禁止されています。この理由は明確です。エディトリアル・コレクションは現実世界のブランドや出来事を正確にありのままに描写することが求められるカテゴリです。対して生成AIはその定義上、現実には存在しないものを捏造または創作する技術です。したがってAI生成物はエディトリアルの真実性という要件と根本的に対立するため提出が許可されません。
第二に、フェイクニュースを助長するコンテンツの禁止です。Adobeのガイドラインは生成されたコンテンツが現実のニュース価値のある出来事を描写していると示唆するタイトルやキーワードの使用を禁止しています。これはAdobeが自社のプラットフォームをディープフェイクや偽情報の拡散源として利用されることを防ぐための極めて重要な法的ファイアウォールです。実在の政治家や場所をAIで生成し、それが実際の出来事であるかのような印象を与える作品は、Adobeの責任および倫理の枠組みに真っ向から違反します。
第三に、権利未処理の知的財産に基づくプロンプトの使用禁止です。法的な権利であるモデルリリースやプロパティリリースなどを所有していない人物、場所、またはプロパティを参照するプロンプトを使用して作成された作品の提出は全面的に禁止されています。
第四に、架空に関する虚偽の申告です。実在の著名人に酷似した人物画像を生成し、それを人物とプロパティは架空のものですと偽って申告する行為は最も悪質な違反の一つです。これは架空であるという法的宣誓と、著名人の知的財産を使用してはならないという知的財産ルールの両方に違反します。
2025年以降の展望と日本のAIクリエイターが担うべき責務
2025年におけるAdobe Stockの生成AIルールは、クリエイターに対し単なる芸術的才能以上の法的な説明責任と倫理的な透明性を要求しています。この厳格なルールの背景には、Adobeが目指す信頼に基づくエコシステムの未来像があります。
この信頼と透明性を技術的に担保するのがContent Credentials（コンテンツクレデンシャル）です。これは画像ファイルに改ざん防止機能を備えたメタデータを埋め込む技術であり、その画像がいつどのようにそしてAIを使用して作成されたかどうかを示す成分表示ラベルのように機能します。この技術はオンライン上の誤情報を防ぐと同時に、正当なクリエイターが評価を得られる仕組みとして機能することが期待されています。
Adobeの2025年デジタルトレンドレポートは次のトレンドとして、自律的にタスクを実行するエージェントAIの台頭を予測しています。また、将来の製品ではAI機能と無料のAdobe Stockメディアがより深く統合されていくことが示唆されています。
この未来像から導き出されるAIクリエイターの将来的な役割は明確です。次世代のエージェントAIが企業のマーケティングキャンペーンを自動生成するといった高度なタスクを実行するためには、そのAIがアクセスできる膨大な量の商業的に安全なコンテンツが不可欠です。AdobeがFireflyで自ら安全なコンテンツを生成する一方で、Adobe Stockのコントリビューターに厳格なルールを課しているのは、この次世代AIの燃料となる法的にクリーンなアセットを外部からも調達するためです。
したがって2025年の厳格なルールを遵守することは、単に目先の審査を通過するためだけの作業ではありません。それはAdobeが構築する次世代のAIワークフローに自らの作品を適格な燃料として供給し、未来のエコシステムに参加するための必須条件なのです。
日本のクリエイターにとって、これからの時代に求められるのは、AIを操作する技術者であると同時に、法務を理解するコンプライアンス担当者であり、そして最終的な品質を保証する冷徹なキュレーターでもあるハイブリッドな専門家としての責務です。Adobe Stockの生成AI提出ルールを正しく理解し実践することは、単なる収益化の手段ではなく、信頼されるプロフェッショナルクリエイターとして次世代のクリエイティブエコシステムに貢献する第一歩となります。
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