PIXTAストックフォト収益減少の実態と2025年生き残り戦略

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PIXTAのストックフォト収益は、2025年において大幅な減少傾向にあります。単品購入者数が前年比16.8%減少し、定額制プランの月間購入者数も4.2%減少したことで、クリエイターの収益環境は厳しさを増しています。この状況に対応するため、PIXTAは機械学習用データ販売事業への転換や、「ビジュアルプラットフォーム」としての進化を戦略として打ち出しており、クリエイターにとっても従来の素材販売に依存しない新たな収益化戦略が求められています。

目次

PIXTAの2025年12月期業績予想が示す構造的課題

PIXTAが発表した2025年12月期の業績予想は、同社を取り巻く経営環境の複雑さを如実に表しています。売上高については創業以来の過去最高となる30億円という数値を目標として掲げており、一見すると順調な成長軌道にあるように映ります。しかし、営業利益においては減益が予測されており、「増収減益」という構造が浮き彫りとなっています。

この増収減益の背景には、2024年12月期に特定の大口案件による一時的な売上の嵩上げがあり、2025年はその反動減が利益面を圧迫する要因となっています。より深刻なのは、PIXTAのコアビジネスである国内ストックフォト事業(PIXTA事業)における基礎収益力の低下です。定額制プランの月間購入者数は前年比で4.2%の減少を記録し、単品購入者数に至っては16.8%もの大幅な減少となりました。

ストックフォトビジネスにおいて、定額制プランは安定的なキャッシュフローを生む基盤であり、単品購入は高い利益率をもたらす収益の柱として機能してきました。特に単品購入者数の二桁減という数字は、ライトユーザーや単発プロジェクトでの利用者が、より安価な代替手段へと流出していることを示唆しています。

ストックフォト収益減少の本質的な原因

生成AIの普及がもたらした市場構造の変化

PIXTAにおける単品購入者数の16.8%減少は、クリエイターの収益減少に直結する決定的な要因です。かつて広告制作やWebデザインの現場では、プロジェクトごとに必要な画像を検索し、数千円から数万円のライセンス料を支払って購入する「単品購入」が一般的でした。クリエイターにとっても単品購入は1回あたりの報酬額が大きく、重要な収益源となっていました。

しかし、2025年現在、この商習慣は急速に過去のものとなりつつあります。その最大の要因は生成AIの普及です。「会議室で握手するビジネスマン」や「青空を背景にした新緑」といった汎用的かつイメージ重視の画像であれば、画像生成AI(Midjourney、DALL-E 3、Adobe Firefly等)にプロンプトを入力するだけで、数秒で極めて低コストに生成することが可能となりました。これまで数千円を払ってPIXTAで購入していた層が、「とりあえずAIで生成してみる」という行動様式にシフトした結果、特に高単価な単品購入の需要が蒸発したのです。

サブスクリプションモデルへの移行とクリエイター報酬の低下

サブスクリプション(定額制)モデルへの移行も、クリエイターの収益減に拍車をかけています。ユーザー企業にとってはコスト管理が容易な定額制ですが、クリエイター側に支払われる報酬は「1ダウンロードあたり数十円」というレベルにまで低下する傾向にあります。PIXTA事業における定額制会員の減少(-4.2%)は市場全体のパイが縮小していることを示しており、残ったユーザーも単価の安い定額制に集中することで、クリエイターが得られる総収益は二重の打撃を受けている構造となっています。

供給過剰と価格破壊の進行

生成AIの影響は需要サイドだけでなく、供給サイドにおいても劇的な変化をもたらしています。AIツールの進化により、特別な撮影機材や絵画技術を持たない個人でも、高品質なストックフォト並みの画像を量産することが可能となりました。一部のプラットフォームではAI生成画像の投稿が解禁されており、これにより市場への画像供給量は指数関数的に増大しています。供給が爆発的に増えれば、当然ながら価格に対する下落圧力が働きます。従来のストックフォト市場では「写真の希少性」が価格を支えていましたが、AIによってあらゆるシチュエーションの画像が無限に生成可能となった今、画像のコモディティ化(日用品化)が極限まで進行しています。

AIを活用して効率的に制作を行う「AIクリエイター」の台頭も見逃せません。AI生成ツールを活用して1ヶ月に1,000枚以上の画像を生成・投稿し、短期間で数万円の収益を上げる事例が出現しています。一方で、一枚一枚丁寧に撮影・レタッチを行う従来型のフォトグラファーは、制作スピードと量において圧倒的な劣勢に立たされています。

PIXTAが打ち出す2025年の事業戦略

「ビジュアルプラットフォーム」への転換

厳しい経営環境の中で、PIXTAは単なる「素材サイト」からの脱却を図っています。同社が掲げる2025年のスローガンは「ビジュアルプラットフォーム」としての進化であり、ビジュアルニーズを持つ顧客に対して、素材提供のみならず、撮影、制作、データ活用といったソリューションをトータルで提供する企業体への変貌を目指しています。

具体的な重点戦略として、3つの柱が設定されています。第一は、出張撮影マッチングサービスであるfotowa(フォトワ)事業の抜本的サービス改革です。fotowaは過去9年間の運営実績を持ちますが、直近のデータでは累計撮影件数が19.9%減少するなど、成長の鈍化が顕著となっています。PIXTAは単発の撮影マッチングにとどまらず、家族のライフイベントごとの継続的な利用を促し、顧客生涯価値(LTV)を最大化するためのサービス改革を断行するとしています。

第二は、PIXTA事業(ストックフォト)のテコ入れと延命です。減少傾向にあるとはいえ、依然として全社売上の大半を占めるPIXTA事業は、新規事業への投資原資を生み出す「キャッシュカウ(金のなる木)」としての役割を期待されています。2025年にはUI/UXの改善による検索性の向上やコンテンツの質的向上を図り、売上減少のペースを緩やかにコントロールすること(ソフトランディング)が目標とされています。

機械学習用データ販売事業という新たな収益軸

第三の、そして最も戦略的な意味を持つのが、機械学習用データ販売事業の拡大です。これはPIXTAが保有する膨大な画像・動画資産を、AI開発企業向けの学習データとして販売するBtoBビジネスであり、ストックフォトの減収分を補い、将来的には主力の収益源へと育てるべき最重要領域と位置付けられています。

世界中のAI開発企業が直面している共通の課題は、「良質な学習データの不足」と「データの偏り(バイアス)」です。特に欧米主導で開発されたAIモデルは、アジア人、とりわけ日本人の顔立ち、日本の生活様式、日本のビジネスシーンの生成を苦手としています。AIに「日本の学校」を描かせても、どこか欧米風の教室や制服が混ざってしまうといった現象は日常茶飯事です。

ここにPIXTAの強みがあります。PIXTAには数千万点に及ぶ「正真正銘の日本の写真・動画」が蓄積されており、それらには正確な日本語のタグ(メタデータ)が付与されています。このデータセットは、日本市場向けのAIモデルを開発したい企業や、自動運転・顔認証システムの精度を高めたい研究機関にとって、極めて価値の高い資源です。

PIXTAはこの需要に応えるため、ストックフォトとして投稿された素材をAI学習用データとして販売するほか、特定の要件に基づいた新規撮影(オーダーメイドデータセット)や、データへのアノテーション(タグ付け代行)サービスも展開しています。特定の野菜の画像データセットや、日本人の様々な表情のデータセットなどが商品化されており、これらは従来のストックフォトよりも遥かに高い単価で取引されるBtoBビジネスとなっています。

クリエイターへの報酬還元と生成AI学習に関する方針

PIXTAの「原則禁止、個別許諾」スタンス

機械学習用データ販売において最もセンシティブな問題は「クリエイターへの報酬」です。自分の作品がAIの学習に使われることに対し、多くのクリエイターは「作風の盗用」や「将来的な仕事の消失」を懸念しています。

PIXTAは2023年の規約改定において、クリエイターがアップロードしたコンテンツが、原則として生成AI(画像生成モデル)の学習に使用されることを禁止しました。これはクリエイター保護の観点から明確な一線を引いたものであり、無断でのAI学習を拒否する姿勢を示した点は評価されています。

一方で、PIXTAは「機械学習用データ提供サービス」を通じて、別途許諾を得た素材については販売を行っています。クリエイターが自身の作品をこのデータセットに含めることを承諾した場合、あるいは特定のプログラムに参加した場合に報酬が発生する仕組みです。「PIXTA Premium」という制度では、PIXTAが認めた人物専属クリエイターに限り、渾身の完全新作を1点11,000円(税込)という高価格で販売することが可能となっています。ただし、対象者は限定的です。

グローバル競合との還元モデルの違い

Adobe Stockは、クリエイターが投稿した画像を自社の生成AI「Firefly」の学習に使用することを前提としており、その対価として「Fireflyボーナス」を年に一度支払っています。2025年のボーナスは前年比で約3倍に増額されたとの報告もあり、クリエイターにとっては「AIに使われること」が明確な金銭的メリットとして還元されています。Shutterstockも同様に、「コントリビューターファンド」を通じて、AIモデルのトレーニングに貢献したクリエイターへ継続的な報酬分配を行っています。

これに対し、PIXTAは「原則禁止、個別許諾」という慎重なスタンスをとっています。日本の著作権意識やクリエイターの感情に配慮した結果ではありますが、Adobeのような「全自動かつ規模の経済を活かした還元システム」に比べると、一般クリエイターがAIの恩恵を直接的に享受するハードルは高いと言わざるを得ません。

2025年のストックフォト市場トレンドと売れる戦略

生成AI時代における「真正性(Authenticity)」の価値

2025年の市場トレンドにおいて逆説的とも言える現象は、AIが進化すればするほど「本物であること(Authenticity)」の価値が高まっている点です。AI生成画像は美しく整っていますが、どこか現実味がない、あるいは「嘘っぽい」と感じる消費者が増えています。消費者の97%が信頼を得るために「本物の画像」が重要だと回答しているとの調査結果もあります。企業広告においてもAI画像を使用することで「手抜き」「不誠実」というネガティブな印象を持たれるリスク(AIウォッシュ批判)が顕在化しており、実写素材への回帰が見られる領域もあります。

特にPIXTAにおいては「日本的なリアリティ」こそが最大の武器となります。AIには生成が難しい、日本の地方都市の風景、雑多な日本のオフィス、微妙なニュアンスを含む日本人の表情などは、依然として高い需要があります。「2025年問題」に関連する高齢者介護の現場や、地域医療、シニアのリアルな生活風景などは、行政や企業の広報において「嘘のない写真」が求められる典型的な領域です。

縦型動画とショートムービー需要の拡大

静止画市場がAIに浸食される一方で、動画市場、特に「縦型動画」の需要は2025年も拡大を続けています。TikTok、Instagram Reels、YouTube Shortsなどのプラットフォームが定着し、企業のマーケティング活動も縦型動画ファーストへとシフトしています。

PIXTAの検索データにおいても「縦型動画」「タイムラプス」「ビジネス」といったキーワードが上位を占めており、動画素材の販売数は静止画に比べて堅調です。特に30秒以内の短尺で、スマホ画面いっぱいに表示される縦型構図の素材は、SNS広告の素材として需要が高まっています。動画生成AIも進化しているとはいえ、人物の自然な動きや感情表現、あるいは特定の場所の臨場感を再現するレベルには至っておらず、実写動画クリエイターにとっては有望な市場です。

クリエイターが2025年を生き抜くための具体的戦術

AIが苦手な領域への特化

収益減少に直面するクリエイターが2025年の市場で生き残るためには、「AIが苦手な領域」への集中が有効です。具体的な文字情報を含む看板や書類、複雑な手指の動作を伴う作業(伝統工芸、医療処置など)、特定の地域性が強く反映される風景などは、AIが正確に描写できない領域です。これらのニッチだが確実な需要があるテーマを狙い撃つことが、収益確保への近道となります。

検索最適化(SEO)の徹底

どんなに良い写真でも、検索されなければ存在しないのと同じです。2025年のトレンドワード(「DX」「フェムテック」「SDGs」「2025年問題」など)を意識したタグ付けを行うことは必須です。また、AIツールを活用して画像の内容を解析し、最適なタグを自動生成させることで、タグ付けの手間を削減しつつ検索ヒット率を高める工夫も有効です。

マルチプラットフォーム戦略によるリスク分散

PIXTAだけに依存せず、Adobe StockやShutterstockなど海外のプラットフォームも併用することで、日本市場の縮小リスクをヘッジすることができます。海外サイトでは円安の恩恵を受けてドル建ての報酬が増加傾向にあり、PIXTAの減収分を海外サイトで補っているクリエイターも少なくありません。

クリエイター収益の現場実態

定額制プラン価格改定後の影響

PIXTAは2024年9月に定額制プランの価格改定(値上げ)を実施しました。広告市場の拡大とクリエイターへの還元強化を謳っていますが、現場のクリエイターの実感としては、必ずしも収益増にはつながっていません。定額制プランにおけるクリエイターへの報酬配分率は販売価格に対して一定の割合で決まりますが、1ダウンロードあたりの単価(クレジット)は非常に低い水準です。価格改定によって会員数が減少したりライトユーザーが離脱したりすれば、トータルのダウンロード数が減少し、結果としてクリエイターの手取りは減ることになります。

単品購入の大幅減(-16.8%)は、数少ない「高額報酬」の機会を奪うものであり、定額制の薄利多売モデルへの依存度を極限まで高めています。多くのクリエイターが感じる「忙しいのに稼げない」という疲弊感の正体がここにあります。

成功と失敗を分ける要因

2025年のストックフォト市場において、クリエイターの収益状況は「明暗」がはっきりと分かれています。成功しているクリエイターの特徴は「多作」と「トレンド対応」です。月に数百枚以上の新作を投入し、常に検索上位に自分の作品が表示されるようにコントロールしています。中には生成AIを制作プロセスに組み込み、背景素材やイラスト素材を大量生成して収益化に成功している事例もあり、開始半年で月収数万円に到達したケースも報告されています。

一方で収益を落としているクリエイターは、更新頻度が低く、過去の資産(ストック)に依存している傾向があります。ストックフォト市場は「フロー」の側面が強まっており、常に新しいトレンドに合わせた素材を供給し続けなければ、AI生成画像や競合の新作に埋もれてしまいます。かつてのような「不労所得」モデルは、2025年時点ですでに崩壊していると言わざるを得ません。

2025年以降のPIXTAとストックフォト市場の展望

「データプロバイダー」への進化

2025年以降、PIXTAは「素材サイト」としての顔を持ちつつも、その本質を「AIのためのデータプロバイダー」へと変化させていくと考えられます。中期経営計画において2030年の売上目標60億円を掲げていますが、その成長エンジンの大部分は機械学習用データ販売事業や、そこから派生するソリューション事業が担うことになります。

既存のストックフォト事業は、新たなデータを収集するための「巨大な収集装置」としての機能を強めていく可能性があります。クリエイターが投稿する写真は、人間の購入者に売れることだけでなく、AIの学習データとして価値を持つかどうかが新たな評価軸として加わることになります。

クリエイターに求められる変化

クリエイターにとっては過酷な淘汰の時代が続きます。生成AIとの競争、単価の下落、求められるスキルの変化など課題は山積しています。しかし、AI時代だからこそ「人間が撮影した」「人間が描いた」という事実そのものがプレミアムな価値を持つようになります。また、PIXTAが推進するデータ販売事業が軌道に乗れば、良質なデータを提供できるクリエイターには新たな形の報酬(データライセンス料)がもたらされる可能性もあります。

PIXTAの2025年戦略は、激変する環境下での生存をかけた大転換です。クリエイターもまた自身の制作スタイルやビジネスモデルを再定義し、プラットフォームの変化に合わせて進化することが求められています。2025年は過去の成功体験を捨て、新たな時代のルールに適応できた者だけが生き残る、選別の年となるでしょう。

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